
ただ一つ、サポートチームとのミーティングで悩んでいたのが、コントで笑いを取ることに主眼を置くべきか、それよりもお客さんに職人仕事をきちんと説明するべきかという点であった。
うんうん唸っていると、会場でのサポート役として紹介された女性、通称”おすぎ” が、「ちょっとよろしいですか」と、おもむろに発言した。
「先ほどコントについてのお話がありましたが、柴田さんは実際にコントをされることもやぶさかではないのでしょうか?」
もちろん、盛り上がりのためなら私はコントも辞さない覚悟である。
「では、弟子役の方を修行初日という事にして、職人の技術を指導しながら進めていく、というのはいかがでしょうか?そうすれば周囲の方々に伝統技法を間接的に説明できますし、ポンコツ弟子という設定でコント調にすれば楽しく見ていただけるのではないでしょうか」
おすぎは折衷案を瞬時に練り上げるだけでなく、より具体的にしてみせた。こうして、”江戸時代式木工ろくろ実演コント”の素案が誕生したのである。私たちは舞台の成功を予感した晴れやかな気持ちでおすぎ案に賛同した。

見事な手腕で一つの課題が片付いたついでに、私は浮上したばかりの懸念事項も報告しておいた。
「確保していた弟子役なんですが、家庭の事情で当日になって急に来られなくなるかもしれないと、さっき連絡がありました」
この時、すでに本番が二週間後に迫っていた。
おすぎは一瞬、戸惑ったようにも見えたが、「緊急の場合、弟子役はわたくしが、、、」と静かに現実を受け入れた。その腹を括った様子は、「いざという時は刺し違えてでも、、、」と語る武士の妻を彷彿とさせるほどであった。
後日予定されているオンラインミーティングにてセリフ合わせまで願い出ているので本気らしい。
それだけの覚悟を持った人物とならば舞台上で心中するのも悪くはない。だが、おすぎからは話し方ひとつとっても知性が溢れ出しているため、ポンコツ弟子を演じるというにはギャップがありすぎるのではないだろうか。
「やぶさか」などという言葉を使いこなす楚々とした女性がポンコツを演じ、ボケをかます場面というのはやはり想像しがたく、あきらかに無理をしているという痛々しさすら漂いかねない。
それはそれで見てみたいと興味をそそられもするのだが、ツッコミとはいえ健気にがんばるおすぎに「バカヤロー!」などと罵声を浴びせていたら、舞台上で心中するどころか、義憤に駆られた酔客に私だけ袋叩きにされる図が脳裏をよぎる。場所柄、都合よく撮影用の日本刀や木刀が転がっていてもおかしくはないのである。
それから数日が経ち、弟子役の欠席が現実味を帯びてきた。代役を立てようにも、開催日である金曜日から日曜日までの三日間をまるごと確保するだけで難しいというのに、「再来週、東映太秦映画村でコントをしませんか?」などと誘ったところで突飛すぎて引き受ける者がいるとも思えない。
私は頭を抱えたのち、ダメ元で一人の男に電話をかけてみることにした。
本番まで残り十日。果たして、江戸時代式木工ろくろ実演コントは実現するのか!?
次回、乞うご期待。
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イラスト:SORRY.
和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。
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写真:其田有輝也




erakko おとも椀
erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。
旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれたのがerakkoのおとも椀です。天然素材である木と漆を味わうだけでなく、アウトドアで使うための工夫を施した本格派の作りになっています。
カエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットなど、おとも椀の木地には様々な樹種を使用しており、それぞれがもつ個性を引き出すことにもこだわっています。木肌の色や木目を活かすため、拭き漆に使用する漆は樹種ごとに使い分けています。
おとも椀には、高台(こうだい)といわれる底の立ち上がりがありません。野外での使用を考え、重心を低くして転びにくくするためです。これ以上ないシンプルさと、ふんわりしたやさしい丸みで、いつまでも両手で包み込んでいたくなるお椀です。
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生産地:京都府
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付属品:風呂敷(むす美 / 日本製)
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