「おめぇ、ひとん家(ち)の布団で屁をこくんじゃねえよ。きのう仕事場の寝袋でもプップやってたの知ってんだぞ」
二日ぶりに自宅の布団で横になった私は、ともに合宿生活を送っている男に注意した。男は反省の色を見せようともせず、「屁もこかせてもらえねぇのかよ、、、ちいせぇ男だよ、、、」と悪態をついて寝返りをうつのだった。
ひとん家の布団で臆面もなくプリプリと屁をこいてのける彼こそ、”江戸時代式木工ろくろ実演コント”の弟子役を務めてくれることになった救世主、”兼之助(かねのすけ)”である。
東映太秦映画村という大舞台でコントを織り交ぜた実演を行うという方針が決まったものの、本番の十日前になって弟子役の選び直しを迫られるという緊急事態に陥っていた私。(詳しくは前回の記事を参照されたし)
ただ一人、これ以上ないという適役がいるのだが、その人物は北海道の廃校ゲストハウスで働いている。
彼は軽トラキャンピングカーによる日本一周の途中でその宿に滞在し、様々な改修作業をこなす事から、”親方”と呼ばれ親しまれるようになった。そして一冬の滞在予定がいつの間にか三年近くに及んでいたという稀有な存在である。
私もゲストハウスに泊まった際には親方の作業を何度か手伝った、いわばDIY仲間なのだ。
性格は豪快というか野暮というかデリカシーに欠けるというか、繊細無比で配慮の塊のような私の対極を行く。
三年近く滞在したゲストハウスを出て旅を再開した親方は、私の仕事場にも立ち寄ってくれた。そこでDIYなどを手伝ってもらったのだが、私が自宅に帰っている間にも彼は風呂・トイレ無し、ガス・水道も通っていない仕事場に滞在し、丸一週間も泊まり続けたという他に類を見ない存在でもある。
大雨が降った際に、「風呂の代わりだ」 と言って近所の目も気にせず全裸になり、壊れた雨どいから降り注ぐ雨水で行水をしていた時に見たお尻が今でも鮮明に思い出される。
現在の彼は日本一周を終えてから紆余曲折を経て廃校ゲストハウスに戻り、再び親方と呼ばれる日々を送っている。
生まれも育ちも東京の江戸っ子で酒宴や祭りを好み、注目を集めて場を盛り上げる能力にも長けている。まさしく ”江戸の夜祭” にふさわしい男なのである。
「親方なら最高のパフォーマンスを見せてくれるに違いない、、、」
当初から彼が頭に浮かんではいたのだが、出演費に加えて飛行機代まで負担できないと検討段階で除外していたのだ。だが予算うんぬん言ってられなくなり、イベント期間中の予定を確認するため電話をかけてみる事にした。
「ちょうど来週、賃貸住宅の整理しにいったん茨城に戻る予定ですよ。 え?舞台?オレぁアッキーさんのためだったらなんでもやりますよ」
なんという偶然。そしてなんという男気。詳細も聞かずに引き受けるとは正真正銘の江戸っ子に違いない。
「じゃ、詳細は後ほど」といって電話を切る。書きかけの台本を送るにあたり、弟子役の名前は彼の本名から一字を取って”兼之助”と命名された。ちなみに私の役名は”柴作”である。
(次のページに続く)
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