
本番四日前の早朝、駅へと車を走らせる。夜行バスに揺られてきた親方が、まだ薄暗い京都駅八条口に登山リュックを担いで立っていた。一年ぶりの再会だが、挨拶もそこそこに当日のスケジュールを発表する。
「これから仕事場に行って、十五時にオンラインでサポートチームに通し練習を披露する」
つまり中途半端な状態では見せられないので、二十分を超えるであろう台本を暗記するだけでなく、熱のこもった演技をしてくれという事である。無茶を言ってるという自覚はあるが、そんな要求をガハハと笑えるのが彼なのである。
そして私たちは江戸の職人になりきるため、京都駅を出発してから本番を終えるまで、いわゆる ”べらんめえ口調” で会話する事とし、お互いを役名である ”柴作” と ”兼之助” と呼び合う事にした。
とはいえ、ある程度の語彙を調べて雰囲気だけそれっぽくした ”なんちゃってべらんめえ口調” である。ただお互いに、「おめぇ」、「コノヤロー」 などと言葉使いが汚くなっただけだともいえる。
先ほど、「彼とは五年以上の付き合いで、、、」などと書いたが、実は未だにお互い敬語を使っている。ある日突然タメ口に切り替えるというのも、「ボクたち親しくなったよね?」というチャラついた感じがするため、硬派に敬語を貫いているのである。
それが役作りのために気安い言葉で話すようになったまではいいが、それなりに付き合いがあるためか余計な事まで口をついて出るようになってしまった。
私は兼之助に対してタバコくせーとか、屁をこくなとか、ガサツだ無神経だと単なる生活の文句を言うようになり、彼は彼で、何かにつけ私を「ちいせぇ男だ」、「女みてぇなヤロウだ」、「家もちいせぇ」と侮辱するようになった。
そのように役作りのためだったはずの ”べらんめぇ口調生活” は単なる暴言生活の様相を呈していく事になり、私も歯止めが効かなくなって何度か険悪な雰囲気を醸した事もあった。

兼之助とのアレコレについて長々と書きすぎたが、初日にサポートチームのおすぎ達へと披露した通し練習は概ね良好。その日は仕事場の寝袋で就寝し、二日目は本番で使用する材料の用意。
夜になり薪ストーブで暖まりながらカップ麺を用意していると、兼之助が舞台はどんな場所かと聞いてきた。私は受け取ったままにしていた会場マップのデータを開いてみた。
一度下見に行っていたので舞台が目抜き通りの突き当りにある事は知っていた。マップによると、その目抜き通りに入ってすぐの場所に、太秦映画村公式の演目であり、開始と同時に行列ができるという人気の丁半BARがあった。
「丁半BARの行列を尻目にこっちがガラガラだったら目も当てらんねぇな、、、」と弱気になったが、その立地を利用する方法を思いついた。
「兼之助!おめぇの登場シーンなんだが、この目抜き通りを丁半BARのあたりから大声あげながら駆け込んでくるってのはどうだろう?」
ポンコツ弟子の兼之助が弟子入り初日から遅刻して駆け込んでくるという台本だが、当初は同じ建物の舞台袖から出てくる予定だった。
だが、人でごった返す目抜き通りを「てぇへんだ!てぇへんだ!」と兼之助が駆けてきたら注目を浴びるに違いない。
そして大勢のお客さんを引き連れて兼之助が舞台に登場すれば、その流れのまま私たちの演目を見てもらえる公算が大きい。
勢いづいた私たちは、カップ麺をすすりながら意見を出し合い、ようやく楽しんでもらえる舞台になるのではないかという予感が沸き上がってきた。
本番まであと三日。私たちは、「たとえ今回きりの出番だったとしても、桜みてぇにパッと咲いて、パッと散ってやろうじゃあねぇか!」と、片膝をついて口上を述べるほど気分が乗ってきたのであった。
つづく
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イラスト:SORRY.
和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。
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写真:其田有輝也




erakko おとも椀
erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。
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