今回、べんがら染め作家の邦子さんをたずねました。倉敷から北へ電車にゆられて、備中高梁で降り、吹屋という山あいの集落へ。べんがらの里といわれる、江戸から明治にかけてべんがらと銅山で栄えた町。べんがらは土からとられる酸化鉄を主成分とする顔料のことで、インドのベンガル地方から製法が伝わったとされているために、そう呼ばれているみたいです。ミレンガについで、またインドの風が吹きました。吹屋だけに。地つづきですね。
「吹屋ふるさと村」という場所が表通りなのですが、当時の街並みが保存されていて、赤茶の石州瓦に、壁や格子はべんがらで染めてあります。これが、おもわず立ちどまってしまうくらいのはっとする色なんです。赤なのに落ち着くって、なかなかないでしょう。安らぎました。私もじぶんの家をたてるなら、玄関の壁を淡いべんがらで染めたい!と思って、どきどきしました。
婚家であった歴史ある神社をはなれ、吹屋にひとり移り住んだ邦子さんは、頼まれものの暖簾を染めていました。べんがらの粉に、大豆を水でふやかして作った呉汁をまぜて、染めるための液体をつくりだします。昔は着るものに色を入れるのにはわけがあったんだ、とおしえてくれました。ことにべんがらは、洗濯するといつまでも色が落ちるので、そのたびに身についた要らないものも一緒に流してくれるといわれてきたそうです。赤は魔除けの色とよくいうけれど、べんがらも、人を守ってきれいにしてくれていたみたい。お守りみたいにして、私も身に纏いたくなりました。
朱赤やおちついたピンク色のイメージがあるべんがらは、さまざまに組みあわせることで黄色、緑、黒、灰などの色をだすこともできるみたいです。染色しているときの邦子さんの手、みてください。真っ赤っかにつや光りしています。この日染めた暖簾は、日をまたいで、じっくり何度も色を入れていくそう。うぐいすの鳴く山あいの里に、ちょうど気持ちのいい風が吹いて、干したばかりのべんがらの布をふっくら揺らしていました。この日の邦子さんのワンピースも、べんがら染めです。奥行きのある朱赤。この中に、あらゆる色が入っている。そういう色でした。
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吹屋案内所 下町ふらっと
〒719-2341
岡山県高梁市成羽町吹屋890
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