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倉敷美観地区

さいごに、倉敷でのことを。美観地区を歩いてみました。雨予報だったのが、カーッと晴れました。と思いきや、とつぜんのサンシャワー。大粒でした。サンシャワーは、どこか祝福感がありますね。Coccoの『陽の降りながら雨の降る』、あきこさんしっているかなあ。とてもいい曲。なにごとにおいても、どちらもある、という考えかたや感じかたに、安堵をおぼえます。べんがらの朱赤みたいに、はっきりこうと言う分け目はなくて、そのなかにいろいろなものが一緒に入っているような状態。分かちあう、という言葉がありますが、あれは分けることのできないものを、いろんな人ですこしずつ大切にすることですね。よろこびも痛みも。あらゆるすべてはどうにも分けられないのが、ほんとうのところだって思うから、争うのではなく、分かちあう世界になりたいと願っています。

倉敷民藝館倉敷民藝館

倉敷民藝館ものぞいてみました。あきこさんと来たらたのしいだろうなあと思いながら、しんとした館内を貸切状態でひっそりまわるのも、また一興です。ここにある古今東西のものすべてが、飾られて愛でられるためでなく、生活のなかにじっさい役立てるものとしてある。そう思うと、生きていることをうれしくなります。こどもの頃によく、なにか心にくるできごとがあって、それを乗り越えられそうにないとき、ちいさな花や鳥のへたな絵を、紙きれや曇ったガラス窓や砂に描いていました。だれもみていないところで。ふと、あれは民藝の心かもしれないと思いました。生きていくために、そのいろどりを守るために、ほんのすこし現実をふるわせ、転換させ、巡らせる。そんな心意気を、どの道具からもしずかに感じました。今もうここにいない人も、どこか遠くにいる人も、だれかの手で作られ、だれかの手でつかわれてきたもの。いとおしいです。

倉敷民藝館

さあ帰ろう、と思ったら、吸い寄せられるように器屋さんに入ってしまいました。「滔々」さんと「みんげい融」さん。私、買い物は好きなのですが、買えないときはまったく買えません。身も心もせわしくしているときは、中々ぴんとくることがない。だからこそ、まじりけないままで「いいなあ」と思えるものに出会ったときは、よろこびが溢れます。そんないいわけをして、器を五枚、予定外の買い物をしてしまいました。なかでも、清岡幸道さんの青とも灰とも緑ともいえないオーバル皿、後藤竜太さんの黒飴釉の稜花皿が、お気に入りになりました。

滔々みんげい融

夕飯はディープなベトナム料理屋で、魚のフォー。食べ終わったお皿の、片付ける気も毛頭ないのがあちこちのテーブルで山づみです。おおらかですね。外国料理の店へ入ると、日本に暮らしているその国の人たちが店に集まってきて、家みたいにくつろいだりお喋りに興じたりしている、あの空間がたまりません。そのなかでひとり、おじゃましますという感じで、ちょっと背すじを伸ばして座って、異国にきたみたいにきゅっとしているのが好きです。

宿へ帰り、ピスタチオをティッシュにひろげてボリボリ、持ってきたあずき茶を淹れて、ガガガと仕事です。帰りがけ、駅のロータリーに停まっていたタクシーのおじちゃん、青白い車内灯のしたでぼーっと漫画読んでました。目の前には進学塾があって、サア覚醒せよとばかりに明るい蛍光灯、外の通りまでこうこうと漏れていました。みんな、そんなに肩ひじ張って勉強しなくたっていいよお、というのと、けれどがんばって勉強していい社会をつくる人になってください、いや一緒になりましょうねというのと、半々です。

お喋りな話をきいてくださって、ありがとうございました。あきこさんは次にどこへいくのでしょう。おたより、またお待ちしています。

めぐみより

関根愛

文筆家、映像作家。書籍に『やさしいせかい』『ひとりでいく』『憶えている人』。他に、ひとりでご飯をたべる人々を撮影した映像作品及び自身によるパフォーマンス『ひとりで食べる/Eat Alone』、全国各地の高齢女性のライフヒストリーを記録する動画シリーズ『ばあばのおだいどこから』など。上智大学外国語学部卒。

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