カヌー体験

昨年、結婚10周年を記念して北海道まで家族旅行をした。「いつか船で世界一周がしたい」という私とキャンプ好きな夫。2人の希望をかけあわせて、大平洋フェリーに車ごと乗って北海道へ行き、そこでキャンプをすることにしたのだった。

太平洋フェリーはその名の通り、名古屋を出航し太平洋を北上、約2日かけて北海道へと向かう。家のある京都を出発し、夕方、名古屋港に停泊していた船・きそ(南太平洋のリゾートホテルのような豪華客船)に乗り込む。

船の中とは思えない3層吹き抜けのエントランスロビーに圧倒されながら、海が見える一等和洋室へ。2畳ほどの畳スペースにベッドが2つ。家族4人が過ごすのにほどよい、シンプルできれいな部屋だった。

夕飯はブッフェが楽しめる船内のレストランへ。やがて夕飯を食べ始める頃に船はゆっくりと出航し、橋の下をくぐり抜け進んでいく。窓の外、少しずつ遠くなる名古屋の夜景を見ながら、柔らかくとろけるようにおいしい牛肉を味わう。ワインを片手に、すばらしい旅の始まりだなとしみじみする。

船は丸1日太平洋を進み、じっとりと暑い真夏の京都を離れて3日目の朝、北海道の苫小牧港に到着。時間をかけてようやく着いた割に、北海道まで来た気がしないなぁと思っていたけれど、船を降り、カラッとしたさわやかな風に吹かれた瞬間、「あぁ、ここは北海道なんだな」と深く実感させられたのだった。

一路キャンプ場へと車を走らせ、洞爺湖が目の前に広がる「グリーンステイ洞爺湖」に着くと、夫が汗だくになりながらテントを張る。朝はあんなに涼しく気持ちのいい天気だったのに、昼前からぐんぐんと気温が上昇し、ここ2〜3日は北海道では珍しく30度を超えているのだと地元の人が言っていた。

バーベキューの食材を購入したお店のおばあちゃんが「めんこいなぁ」と娘に声をかけてくれ、レジ横には茹でただけのトウモロコシ「ゆできび」が無造作に置いてある。至るところで「ここは北海道」を噛みしめる。

白樺

テントに泊まり、子どもたちに無理やり起こされた翌朝。よく寝ている夫を起こさないよう子たちを連れ湖畔まで行くと、目の前に朝日にきらめく洞爺湖がパァーッと広がった。その美しさといったら、神々しくて思わず拝みたくなるようだった。

さあ、この日のメインイベントはカヌー体験。カナディアンカヌーに家族4人で乗り、ガイドさんに習ったやり方で恐る恐るオールを漕いでみる。カヌーの揺れは意外と少なく、安定してゆっくりと進む。

場所によって変わる湖面の色、その水の冷たさ、湖岸にいる白鳥、沈んだ巨木などなど、見てさわって体験しながらいろんなことを教えてもらう。湖面を吹き抜ける風はどこまでも心地よく、真夏とは思えない涼やかさ。夏の北海道はとにかく最高なのだ。

夜は、お風呂に入るために洞爺湖温泉街へ。露天風呂に浸かりながら、ライトアップされた遊覧船が真っ暗な洞爺湖を進むのを見る。湖上に散る花火、温泉街独特のゆるやかな雰囲気、夜景。今思い返してみても「人生にはこんなにも楽しい時間があるのか」と、非日常すぎるひとときにうっとりとする。

北海道でのキャンプと少しの観光を終え、帰りのフェリー。行きと同じ船室に入ると、何だかすっかり我が家へ帰ってきたような気分だ。行きと同じく大浴場を楽しみ(1日に3回入った)、映画を見て、昼間からお酒を味わい、たまに海を眺めて、いよいよ旅も最終日。

合計4泊したフェリー。名残惜しくて最後にもう一度船内をウロウロ探検する。福島原発を海から眺めて、ここか…と思ったり、トビウオが海上を飛び跳ねる姿も初めて見た。鳥のように羽ばたいて何メートルも進むトビウオ。息子と一緒に歓声を上げながら見たのもいい思い出。

結局予算を大幅に上回る贅沢な旅となってしまった。けれど、私はこんな時間のために日々働いているのだよなと思い直す。非日常が楽しくてたまらないのは、いつもの(ちょっと退屈な)日常があるからこそで、私はまたせっせと働いて稼いで、非日常な旅に出る準備をしたいなと思う。

さて、次はどこへ行こうかな。

テキスト:江角悠子

フリーライター。京都のガイド本や雑誌、WEB等で記事を執筆。2児の母。

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イラスト:辻ヒロミ

京都府在住のイラストレーター。着物と箱が好き。

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