宇治茶

馨しき宇治茶が愛され続けてきた所以

宇治茶は日本三大茶のひとつとして永らく人々に愛されてきました。鎌倉時代に明恵(みょうえ)上人が栂尾や宇治に茶種を植えたことをきかっけに京都での茶栽培が始まり、その後、足利幕府の奨励を受けて茶園が開かれたことで宇治茶は日本全国へと知れ渡ります。ちなみに、江戸時代初期には「宇治茶」の名が確認されていますが、この間の「お茶」はすべて「碾茶(抹茶)」であり、煎茶・玉露が登場するのは江戸時代中期のこと。山城国・宇治田原湯屋谷で製茶業を営んでいた永谷宗円(ながたにそうえん)が、「宇治茶製法」を生み出してからなのです。いわば、宇治は煎茶と玉露の発祥地! 現在でも、京都・宇治が碾茶および玉露における最高級茶の産地として名高いのはもちろん、とくに手摘みの一番茶だけを使用して手間を惜しまずつくられる宇治茶は、三千家をはじめ多くの人々に愛飲されているのです。

長寿の秘訣?知られざる茶のパワー

その健康効果が注目され、近年ではヘルシードリンクとして海外でも親しまれている緑茶。僧の栄西が碾茶のつくり方や健康に関する茶のはたらきを記した『喫茶養生記』には、「茶は養生の仙薬なり。延齢の妙術なり」とあります。我々がいつも飲んでいるお茶は、薬として中国から渡来したのです。要は、お茶をたくさん飲めば長生きできる、というわけ。なんて手軽な健康法でしょう。

2015年には国立がん研究センターが、緑茶を飲む習慣が死亡リスクを減らすという研究結果を発表しています。けれど、日本茶の輸出が右肩上がりで増える一方、国内では急須で淹れるお茶離れが危ぶまれているのも、また事実。その背景にはもちろん、ペットボトルのお茶の普及があることは否めません。ペットボトルでのどの渇きを癒し、急須で淹れたお茶で心に潤いをもたらす――と、使い分ければいいだけのことなのですが、急須を持たない一人暮らしの若者も珍しくないというから、残念至極。

宇治茶とは?

京都府に加えて、奈良県・滋賀県・三重県で栽培された茶葉を、京都府内業者が府内において宇治地域に由来する製法によって仕上げの加工を施した緑茶のこと。

碾茶(てんちゃ)とは?

抹茶の原料となる茶葉のこと。棚の上に葦簀や藁を敷いて日光を遮る「覆下園(おおいしたえん)」で育てた新芽を蒸した後、揉まずに乾燥させたもの。香り豊かで、まったりとした旨味を特徴とする。碾茶を茶臼でひいて粉状にしたものが抹茶となる。

宇治茶製法とは?

1738年に永谷宗円が考案した、蒸した茶の芽を焙炉(ばいろ:手もみと乾燥作業に用いる道具)で乾燥させながら手で揉むお茶のつくり方。この手もみ製法が現在の煎茶・玉露のつくり方へと発展した。宇治市無形文化財として保存されている。

一番茶とは?

4月下旬~5月下旬に萌え出た新芽からつくられるお茶のことで、新茶と呼ばれる。最上級品は、先端から二枚の葉のついた部分を摘み取る「二葉(一芯二葉)摘み」。6月下旬~7月上旬が二番茶、7月中旬~8月下旬が三番茶となり、葉を摘む時期によって味が変わる。

宇治茶

生産農家の信頼を集める老舗茶問屋へ

文久元年創業の「北川半兵衞商店」は、宇治抹茶において右に出るものがいない老舗の茶問屋。11回の農林水産大臣賞受賞が、その品質の証です。同賞を34回も受賞していることで知られる「菊岡園」や、某テレビ番組で日本茶の世界について紹介した茶師・小林裕氏が代表取締役である「祥玉園」など、宇治でも名立たる17軒もの特約生産農家から茶葉を仕入れ、全国各地の500軒にも及ぶ取引先に商品を卸しています。広大な敷地に立つ工場内では、京都で初めて導入された冷蔵庫がいまも現役で活躍し、抱え過ぎるとリスクも高まるひね茶(前年に製造された茶)を多く保管。安定した商品供給を維持し続けていることで、信頼を積み重ねて来たのです。

「合組」=ブレンドこそ問屋の仕事!

そもそも小売店で我々が手にするお茶は、ブレンドされているものだとご存知ですか? 製茶業界において、このブレンドこそが問屋の腕の見せ所。これを、「合組(ごうぐみ)」といいます。「茶樹は農作物ですから、収穫が安定しないのは当たり前のこと。天候は人間の力では左右できませんから。さらに荒茶(※1)は、産地や品種、蒸し具合が異なります。薫り高いものもあれば、味にコクがあったり、水色(すいしょく)が鮮やかだったり。そういった特長を見極めて組み合わせるブレンダーとしての能力が問屋の人間には必要です」と、北川専務。単一の茶園から収穫された原料でも、製造ロットごとに味は微妙に変化します。だからこそ五感をフルに駆使して、そこに経験則を加味して、価値ある商品を生み出していくのです。これは、消費者に均一な品質でお茶を提供するためにも欠かせない技術。「ひとつの銘柄に5~10種の茶葉を配合します」というから、驚きです。「うちのお客さんは、新茶だけだとクレームが来るんですよ(笑) 爽やかな香りやスッキリした味わいなど、新茶には新茶の魅力がありますが、面白いことに2~3年寝かすと青臭みが抜けて奥行きのある風味になる。だから、新茶と前年度のものを半々にして出したりしますよ」。新しいからいいってものでもない。年月を重ねることで深みを増す。これはまさしくワインやブランデーと同様です。「高校生の頃から現場でバイトを始めたんですが、何て面白い仕事なんやろと思ってね」。数百種類の茶葉の特性を把握して組み合わせ価格と味を決めていく作業を間近に見て、「いっぱい混ぜてひとつのものをつくるってプラモデルみたいだ!と興奮したんです(笑)」。価格以上の価値を生み出すために必要不可欠な「合組」による安定した製造こそ、問屋の存在価値なのです。

祇園に登場!お茶の魅力を伝えるカフェ

「元々、問屋は黒子的存在。とはいえ、時代の流れとともに問屋の在り方も少しずつ変化してきて、10年前くらいから製菓業界とのコラボも行っています。アイスクリームやクッキー、チョコレートなどですね。今年1月11日には、祇園に京町家をリノベーションした日本茶カフェをオープンし、北川半兵衞商店の最高級抹茶が気軽にお愉しみいただけます」と、耳寄り情報。

風味豊かなお茶がいただける「祇園 北川半兵衞」では、苦みや渋みの少ない上品な甘さを持つ最高級抹茶をはじめ、旨味の凝縮した煎茶、香り高いほうじ茶、やさしい味わいの和烏龍茶・和紅茶などを提供されていて、それらを飲み比べられたり、抹茶づくしのお菓子を食べられたり。お茶本来の美味しさを引き立てるペアリングの提案もユニークです。

“ほんまもん”のお茶を知り、新たなお茶の世界への扉を開いてみてください。

※1 収穫した茶葉を蒸し、熱風で乾かした状態のもの。宇治茶の産地では、ここまでの行程を農家が行う。

協力:北川半兵衞商店

文久元年創業。宇治抹茶において右に出るものがいない老舗の茶問屋。2018年1月には日本茶カフェ「祇園 北川半兵衞」をオープン。

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テキスト:椿屋 山田涼子

西陣にある築140余年の長屋で暮らすライター兼、高校講師。本の虫。食いしん坊で呑兵衛。2018年1月より、仮想現実的映画館「椿屋劇場」支配人として、「京マガジン」にて『ロケ地から見る京のまち』を連載中。

イラスト:辻ヒロミ

京都府在住のイラストレーター。着物に独自の感性を取り入れた美人画を得意とする他、ご朱印帖や帯などの図案制作も行う。趣味は着物とぽち袋集め。

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