
この春、私は職人の実演にコントを織り交ぜるという斬新な挑戦をする事になった。しかも会場は京都が誇るテーマパーク、東映太秦映画村。時代劇の撮影所としても大変有名である。誠に光栄ではあるが、私にはいくぶん荷が重い。正直に申し上げるといくぶん気も重い。
なにしろ仕事場を田舎に移してからの私は、DIYや野菜作りに夢中になって隠居じみた生活を送っていた。世俗を捨てたと勘違いしている知人もいたほどだ。
そして久々の表舞台が大変な有名どころときた。取り急ぎ社会復帰へ向けた段階的なリハビリが求められる。
どうして隠居同然の私が再び社会に姿を晒すことになったのか。順を追ってご説明したい。
東映太秦映画村では2016年から定期的に ”江戸酒場” というイベントが開催されており、宵闇せまる江戸の町並みに老舗の酒屋や料亭が軒を並べる。名店の味に舌鼓をうちながら、俳優によるパフォーマンスや伝統芸能も楽しめる大人の夜祭なのだ。
そんな企画に携わっている友人が、伝統文化を披露し体験する枠で私を推薦してくれたという。当初、先方からの要望で場所は伏せられており、私は”市内某所” としか聞かされていなかった。後に舞台の名を知って及び腰になったのは言うまでもないが、すでに逃亡は困難な進行状況であり、そこは友人の会社が全面的にサポートしてくれるという。
そして私は、”文化人” という分不相応な枠で2025年4月の太秦江戸酒場 ~春宵花吹雪~ に参加することになった。
テキスト:柴田明(erakko)
京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きています。アウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動中。
erakko公式サイト

演目は木工の実演と体験なのだが、私の木工はほとんど電動工具を使うため、江戸の町並みにそぐわない。くわえて大半のお客さんが飲酒しているため、刃物を使う体験はNGだという。いったい私に何をしろというのか。
それらの問題を解決するためにサポートチームと編み出したのが、”江戸時代式木工ろくろ実演コント”だったのである。
木工ろくろは、私が使い慣れている道具だ。回転している木材に刃物を当てて削ることにより、お椀などの丸い木工品が作られる。
現代の木工ろくろは回転軸をモーターで回しているのだが、電気が無かった江戸時代には人力で回していた。
一人がヒモを引いて軸を回す。もう一人が回転している木材に刃物を当てて削るという二人一組の作業である。これが現代でも継承されている木工ろくろの元祖であり、”手挽き(てびき)ろくろ” と呼ばれるものだ。
これなら時代設定に合っている。二人一組で作業するので、緊張する舞台に一人で立たなくていい事もたいへん魅力である。本番まであと二ヵ月とあって、ともに栄光をめざす人物の予定だけは迅速に押さえておいた。
刃物を持って削る役を私が師匠として演じ、ろくろを回す弟子役がボケなど挟んでコント風にすれば多少の盛り上がりも期待できるかもしれない。途中で弟子役をお客さんにも体験してもらう事で、刃物無しでワークショップ要素も取り入れられる。
(次のページに続く)
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