おでん屋

「冬はおでんに限る!」と言われる、日本人の隠れたソウルフード。「母の味」として心に残っている方もいるかもしれませんね。老若男女に好まれる食材の宝庫で栄養満点。家庭のおでんを思い出しながら、寒い冬には「おでん旅行」をしてみませんか。

おでんの起源

おでんは、豆腐の味噌田楽を「御田」と呼んだ事から始まります。江戸時代後期から醤油の生産が盛んになり、田楽を醤油で煮込むようになりました。おでんの発祥については諸説ありますが、明暦の大火後(1657年)に江戸では「煮込みおでん」の呼び売りが行われていたと言われています。それをきっかけに明治以降現在のような料理として浸透していきました。

ちなみに関西におでんが広まったのは大正時代以降のことです。当時の関西では「味噌田楽」との区分をするため、おでんのことを「かんとだき」と呼んでいました。

全国のご当地おでん

コンビニのおでんが発売されてから、全国各地のおでんの種をどこでも食べられるようになりました。コンビニおでんは全国のおでんの“イイトコドリ”とも言えます。

しかしご当地に行かないと食べられないディープなおでんの魅力はまだまだ隠されています。おでんの種には「その土地らしさ」が色濃く出ていますので、旅先の雰囲気を味わうにはもってこいの料理です。それでは東西南北のおでんをご紹介しますので、皆さんの「おでん備忘録」としてご覧ください。

関東地方のおでん

関東地方のおでん

おでんの基本、関東のおでんは練り物に特徴があります。人気おでん種の「はんぺん」や「ちくわぶ」は関東のおでんが発祥です。

すじ

また「すじ」というおでん種を見かけますが、関東では「魚のすり身」の練り物のことを「すじ」と呼びます。関西では、すじ=牛すじをイメージするため「牛すじを頼んだつもりがあれ?」となることもよくあるそうです。

北海道・東北のおでん

北海道・東北のおでん

北海道・東北では、山海の幸をふんだんに使っていることが特徴です。ふきや蕨(わらび)・ニオサクといった山菜に、ホタテやつぶ貝などの貝類が基本。

仙台風のおでんにはさんま団子、青森県では名産の白こんにゃくや大角天が入っており、各地の特産品によって様々です。

北海道では、夏季に生姜風味の味噌ダレをつけたおでんが食べられるそうです。出汁は各道県で昆布や焼き干しイワシ、干し椎茸を用い異なるようです。違いを楽しみたいですね。

北陸地方のおでん

北陸地方のおでん

北陸地方では、海の幸に圧倒されます。淡く澄んだ色の昆布のあっさり出汁。赤巻きは「なると」に似たもので、北陸おでんを代表するビジュアル担当。

富山県のおでん

金沢は豪華なおでんで有名です。金沢の多くのお店で、香箱ガニの「かに面」がおでんに用いられていることがその所以でしょう。有名な車麩は、もちろんおでんの種です。「ふかし」というのは、はんぺんと平天の間のような食感の伝統ある練り物で金沢では一般的に知られています。

富山県では白とろろ昆布がトッピングされ、「あんばやし」という白こんにゃくの薄切りに味噌ダレをかけたものもよく食べられます。

東海・東山地方のおでん

東海・東山地方のおでん

東海地方のおでんは全国的なおでんと比べ、とりわけ色黒。

愛知・名古屋では、もちろん八丁味噌を使った甘辛い味付け。豚モツや角麩が入っています。他県では味わえない名古屋らしさを感じますね。

静岡では「しぞーかおでん=黒おでん」と呼ばれる程、黒い汁で煮込んだおでんが食べられます。鰯・鰹粉に青海苔を混ぜただし粉を振りかけて食べるそうです。

東海地方のおでんの共通点が、おでん種ほとんどに竹串が通されていることです。家庭で作るにはひと手間かかりそうですが、串に刺してあると何だか風情がありますね。

東山地方の長野・飯田のおでんには、はんぺんやつみれ・焼き豆腐などが入っています。長ねぎと削り節を加えた醤油ネギダレに付けながら食べるそうです。ネギダレは市販のお店に売られている程、飯田には欠かせないものです。

関西地方のおでん

関西地方のおでん

関西のおでんも各府県でおでんの雰囲気が異なります。

京都の「京おでん」は昆布出汁に淡口醤油の淡い色合いのおでんです。海老芋などの京野菜がおでん種として用いられています。焼き豆腐ではなく生の豆腐というのも京都ならでは。

大阪のおでんは「関東炊き(かんとだき)」に鶏ダシが加わります。現在はなかなか手に入らないですが、鯨のコロ・サエズリが入っているのが特徴です。お店では現在も食べられます。牛すじやたこ足も欠かせないとのこと。

兵庫・姫路のおでんはゴボウ巻きや平天が入っています。生姜醤油タレにつけて食べるのが一般的。

滋賀県・近江のおでんには一般的な黒こんにゃくではなく、名産の「赤こんにゃく」が入ります。

他の地域にはないおでん種として梅焼き(たまごとすり身を梅型に焼いたかまぼこ)も人気。関西ならではのおでん種としてよく食べられています。

中四国地方のおでん

中四国地方のおでん

中四国地方では、素朴な味わいのおでんが食べられています。

高知では鰹節の出汁に特産のじゃこ天や鶏の手羽先・じゃがいもを入れます。

島根・松江では高知同様に鶏の手羽先や春菊・せりなどの葉物につぶ貝などが入ります。あご出汁と鶏出汁を使うのも特徴です。

香川では里芋や白天をおでんの種に。これを白味噌・赤味噌ベースの2種類の味噌だれに付けて食べるそうです。

九州・沖縄地方のおでん

九州・沖縄地方のおでん

九州・沖縄地方は肉食系のおでんです。進化系おでんのルーツはここにありと言えますね。

福岡では餃子巻きやロールキャベツ、餅入り巾着。合わせ出汁と牛スジでコクがある味わいです。

長崎ではもちろん「あご出汁」を用いるそうです。長崎かんぼこの一つ「竜眼(ばくだん)」と呼ばれるゆで卵をかまぼこで包んだものが入ります。長崎おでんの目玉として人気があります。

鹿児島では豚骨・昆布だしに麦味噌を加えたみそ味のおでんが食べられています。名古屋の味噌おでんとは違った味わいで、スペアリブや棒天、大豆もやしを加えるのも特徴的です。家庭料理としてではなく居酒屋の名物料理として知られています。

日本でも暖かい気候で知られる沖縄にもおでんがあります。沖縄では豚足にウンチェバー(空芯菜)・シマナー(からし菜)などの葉物にウインナー、スパムも入ります。おでんにも沖縄らしさが感じられます。

沖縄のおでん

一口に「おでん」と言っても、地域によってこれだけの違いがあります。さらに家庭のおでんは各地の味が混じり合い、各家庭の独特な料理になっています。他地域のおでんを手作りしてみるのも良いかもしれません。「家庭の味」を大事にしつつ、各地のおでんを楽しみましょう。

テキスト・イラスト:小池美波

1993年生まれ。広島県出身のライター兼イラストレーター。写真家としても活動中。写真の感性を活かしたイラスト制作を得意とする。趣味は民芸品や建築にフォーカスした旅。現在出版社の連載など複数メディアで執筆中。

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