今年は「最高の出来」
ねずみ大根まつり当日の天気は快晴、気温9度。坂城を囲む山々がくっきりとその稜線を見せていた。ねずみ大根振興協議会が播種をした畑の農道には参加者の行列ができていて、まつりの目玉となっている収穫体験は開始時刻の朝10時を待たずにスタートした。畑に入っていく人たちはほとんどが長靴に軍手、ジャージか作業着といういで立ちだった。参加者の「本気」を感じ、少し圧倒された。
農家に今年のねずみ大根の出来を聞くと、「最高じゃないかな」と満面の笑みが返ってきた。種をまいた後に雨が降ったため発芽率も良く、例を見ないほど個体が大きい。ねずみ大根の大きさについては、毎年収穫に来るという参加者からも驚きの声が上がっていた。小さい大根の方が辛みが強いと言われ、中には小さそうな大根を選んで抜く人もいる。また坂城では11月に入って朝晩と冷え込む日があり、畑では収穫当日の朝も何度目かの霜がおりたため、大根の甘みが増したようだった。
多様な食べ方
この日畑に集まったねずみ大根好きは、当然食べ方にも精通している。話を聞いてみると、今日は家で坂城の伝統食「おしぼりうどん」をつくるという人が何人かいた。中にはおしぼりうどんを友人のアメリカ人に教えたところ気に入ったため、今年も一緒に食べる予定だという人もいた。つけ汁をしぼった後のねずみ大根は、かき揚げにすると教えてくれた人もいる。漬物をつくるという人も多かったが、ねずみ大根は水分が少ないため一般的な大根より漬かるのに時間がかかるという。たくあん漬けの場合2ヶ月はかかるらしい。歯ごたえのある仕上がりで、ねずみ大根のたくあん漬けを食べるとそれ以外は食べられなくなるという人もいた。
自分の畑でも中之条大根をつくっているという人が、「俺辛いのダメだからさ」と言った時は驚いて取材の手を止めてしまった。辛味大根の中でも辛みが強いと言われるねずみ大根をどうやって食べるのか。すると近くで収穫をしていた人が、「火を通すと辛みがとんで甘みが残るのよ」と教えてくれた。だから煮物や、おろしてみぞれ鍋など、楽しみ方は無限に広がる。かがんで作業をしている人たちが畑の中から「天ぷら!」「おでん!」と次々にメニューを言ってくれるのが何とも温かい。
収穫をしたねずみ大根はその場で葉を落とすが、持ち帰る人も多い。外側の葉はかたいため、内側の葉だけを持ち帰る人もいる。8月の播種作業の際に振興協議会の人が「ねずみ大根は葉っぱがうまい」と言っていたことを思い出した。葉は炒めるとわずかに苦みがあって、一般的な大根の葉よりも味が濃い。オリーブオイルで炒めるか、くるみと一緒に炒めると苦みがとぶという。そしてここでも、かき揚げは定番の調理法らしい。ねずみ大根はその形や辛みだけでなく、甘み、歯ごたえ、葉っぱでも人々を魅了している。
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「坂城のねずみ大根」初めて知りました。いつか坂城に行って、食べてみたいと思いました。レポートも素晴らしい。貴重な情報、有り難うございます。