一日も、一年も、一生も。
私たちの生きる時間は、大きさも色もさまざまな巡りで溢れています。
ひとつの巡りを終えたら、次のひと巡りへ。
ひとつの巡りの中で、小さな巡りがいくつも起こっていたり。
巡りはくり返し、重なりあいながら、人生は満ちていくのでしょう。
これは、沖縄県竹富島在住の写真家・水野暁子(みずのあきこ)と、
神奈川県の西湘地域を拠点とする文筆家/映像作家・関根愛(せきねめぐみ)による
往復書簡『あきことめぐみの、旅のひとめぐり』。
旅の途上で出会う人びと、風景、すてきなもの、時間とのさまざまな巡りあいを、
言葉と写真を通してささやかに伝え合います。
めぐみさんへ
暑いのが苦手なめぐみさんは、どのような夏をお過ごしでしょうか?こちらは、台湾を横断している台風の影響で数日前から強い雨が降ったり止んだりしています。そんな中、私は相変わらず晴れ間を狙って撮影に出かけたり、パソコンに向かって原稿を書いたり、写真の現像をしたりしています。
今回は、数年ぶりに訪れた与那国島でのこと、そして、いつかめぐみさんに紹介したい友人のことを書きます。
沖縄本島から南西に約500キロ、石垣島からプロペラ機で約30分の場所にある与那国島は、日本の最西端の島。起伏が激しくドラマチックなランドスケープが魅力的な島だ。
与那国島へと通うようになったのは新型コロナウイルスが発生する前の年のこと。
今回与那国島へと会いに行った中井真理さんとは、当時関わっていた映画撮影がきっかけで知り合った。通訳やコーディネート、スチール撮影などで参加していたその映画には、真理さんの娘さんが出演していた。撮影の滞在期間中に真理さんは幾度も私たちを夕飯に招待してくれた。
今回も、2日目の夜は、真理さんが生春巻きとサラダを作ってもてなしてくれた。
真理さんの最初の印象は、あまり言葉を発さず、こちらを伺っているような眼差しが、まるで警戒心の強い野生動物みたいだった。何度か顔を合わせる内に、時折口元に浮かぶ静かな笑みから私たちへの警戒心が解けていくのが分かり嬉しかった。撮影が終わった後も、私が与那国島へ行ったり、真理さんが石垣島へ出てきたりした時に二人で会って話すようになった。
それでも今回彼女に会うのは、約3年ぶりと久しぶりの再会で、時間の経過の早さに少し動揺した。
与那国島の飛行場に迎えに来てくれた真理さんは、3年という月日の流れを感じさせないはにかんだようないつもの笑顔を見せてくれた。私たちは一緒に、お昼を食べに久部良集落の高台にある「モイストロールカフェ」へと向かった。
オーナーのテツさんがひとりでコツコツと古い民家を改装して作られたカフェは、そこだけ時間がずっと止まっているような、タイムトラベルマシーンに乗せられている気分になるような、不思議で心地のよいカフェだ。めぐみさんもきっと好きだと思う。
私たちは、近海で捕れたカジキのカルパッチョパスタと、はちみつがふわりと香るロールケーキをいただいた。
カフェの一室の本棚には、びっしりと本が詰まっていて、店主のテツさんが、長い年月をひとりで過ごしてきた時間の中に沈む「自由と幸せと孤独」が一度に垣間見えた気がして、なんだか長い映画を一瞬で観せられたみたいな不思議な気分になった。
(次のページに続く)
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