第十一話「職人、小屋を借りる」
私にはお気に入りの田舎がある。京都盆地の西側にそびえる愛宕山系を越えた先に広がる亀岡市である。これまた盆地で、東側の山のふもとに広がる棚田の上からは美しい夕日が望めるのだ。
その町へは私の住む町から車で片道1時間ほどを要するが、学生の頃から10年以上にわたって頻繁に訪れてきた。いつしか夕陽がきれいに見える亀岡の棚田の上に仕事場を構えるのが夢の一つになった。そうなれば仕事の合間に夕陽を眺める事も可能になる。
ある日、経営者である友人を車の助手席に乗せていた時のことである。私は例の夢の件を話していた。そして、友人は言った。
「ねぇ、それ、いつやるの?いくら必要なの?物件はどうやって探すの?」と。
林修先生のように「今でしょ!」と奮起させる風ではない。経営者らしく淡々と具体的な計画を問われ続けるが何も答えられない。
私は、自分がなんら具体性を持っていない夢を語るだけの矮小な男であると自覚させられた。それでも友人からの質問は続く。それは私にとって精神的拷問に等しかったといえる。
恥ずかしさで耳は真っ赤になり、発火寸前のところでようやく話は終わった。いつまでも夢見る少年ではいられないと思った私は亀岡地域で仕事ができる空き家探しを始めた。
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