私が父の漆工房に弟子入りしてから7年後、私も自分の工房と弟子を持つ身となった。それをきっかけに今回は、私が父に弟子入りしたての1週間を振り返ってみたいと思う。
弟子入りは2015年の11月。修行を始める前にまず、工房で私が作業をするための空間を確保する必要があった。父は整理整頓どころか掃除もあまりしていないようで、工房は足の踏み場もないという有様が常態化していることは知っていた。
まだ私が京都の会社に勤めていた時に父が地元新聞の取材を受けたことがある。「柴田君のお父さんが今朝の新聞に載っている」と社内で知られてしまい切り抜かれた記事が回覧されるという辱めを受けた。
「漆塗りは絶対にチリやホコリが入ってはならず、細心の注意をはらってうんぬん」という語りとともに父の写真が掲載されていたのだが、それがいけなかった。写し出された部屋は大地震の直後のように床が無造作な物で埋め尽くされており、チリやホコリが降り積もっていること必至であった。
その語りと乖離した写真を見た同期入社の山田君は「なにかの冗談かと思った」と言い、社長も「これ絶対ホコリ入るやん!なぁ!」と嬉々として同意を求めてきた。つまりはそういう状態なのである。
しかし、それでいて知り合いの職人は、父を「現代の名工」と呼ぶほどに塗りの腕がいいと言う。なかでも得意なのが「真塗(しんぬり)」である。それは「最後のひと塗り」を仕上げとして、その後に研いだり磨いたりしない事から「塗りっぱなし」とも呼ばれる。
つまり、塗りの際にチリやホコリが付着して漆が乾いてしまうと、研ぎや磨きでの誤魔化しがきかないのである。その真塗を乱雑な部屋でこなすのだから、やはり現代の名工というべきなのか。
COMMENTS