きらら姫

山梨で出会った「きらら姫」

昨年、山梨県の農園を訪れたとき、ある桃に興味を惹かれました。

皮の色はピンクのまだら模様。虎柄みたいにも見えます。少し小粒だけど濃厚な味の桃です。大きさは260g位で丸く、果肉は乳白色で着色はほとんどありません。樹上で熟した実は口の中でほどけるように柔らかく、甘い果汁がたっぷりでした。

あれは5年くらい前だったでしょうか、こちらの丹澤さんの農園で、「西野白桃」という桃をいただいたことがありました。浅間白桃など主たる品種の桃に比べると少々小ぶり。でもちょっと独特のナッツのような香りがあって甘い。普通の桃は、皮の近くが甘くても種の方は全然甘くなかったりするものもありますが、この桃は中の方まで甘かった。だから食べた後の余韻がとても良かったのです。いつか桃好きな方に紹介したいと思い続けていました。

きらら姫

しかし、この桃は人工授粉が必要だったり、落果が多かったり、色付きも悪いときている。とても栽培が難しい品種なのです。丹澤さんは栽培をやめてしまいました。とても残念だったのですが、昨年農園に行ってみたら、新たな桃に遭遇したのです。食べたら甘く、ナッツみたいな香りもあり、ちょっと小ぶり。これ何?と聞いたら、西野白桃の枝変わりの品種で「きらら姫」という名前の桃だというのです。お気に入りの桃が復活しました。

耕作放棄地

耕作放棄地問題

丹澤さんが西野白桃の栽培をやめてしまったのには、理由がありました。丹澤さんは毎年どんどん畑を増やしています。頼まれて知り合いの園地の桃も育てているようです。日本の農業産地はどこも人手不足。高齢化と後継者不足で離農する方が増え、耕作放棄地が増えています。この放棄地というのは雑草が生え放題となり、害虫の大量発生につながり周りの耕作している畑にまで害を広げてしまう。それもあって近所で頼まれた畑の耕作もがんばってしまう。そうなると手間のかかる桃は育てていられない。わざわざ人を雇って手間のかかる桃を育てても、市場に出回ってない桃はお金にならないから。

西野白桃に比べるときらら姫は、花粉があるそうで人工の受粉をしなくてもよく、裂果も少ない品種だそうです。それでも育てるのには技術が必要だし、市場に出しても知っている人は少ないから売りにくい。それでもまだ、こだわりの品種も作りたいという、桃好きの丹澤さんが意地で作っているように見えました。今一番食べてほしいお勧めの桃です。

ネクタリンネクタリン

主力品種のネクタリンに悲劇が

毎年人気のスイートネクタリンですが、こちらに今年は悲劇が起きています。上の写真のような若桃ができはじめた5月12日、山梨で雹が降りました。たった1日、数分だったのですが、この小さな実に降り注いで、ひとつの畑では9割の桃が出荷不可能となってしまいました(※表面に傷がつき、大きくなるとその部分が人間でいう瘡蓋のように固く茶色くなってしまうので商品にならないそうで、加工用にまわすしかないみたいです)。なので今年のスイートネクタリンは、7月下旬までしかありません。ご希望の方はお早目に。

たった1回の雹で1年間の努力が水の泡。なんて大変な職業なんでしょう。近年の天候不順は、農家さんにとっては百害あって一利なしの状況です。気温が高いことで積乱雲が発生しやすく、この上空との急激な寒暖差が雹を作るといわれています。石のような硬い物が降ってきても、農園はその場所から動くわけにはいかないのでどうしようもない。都会のビルの中で仕事をしている自分からすれば、想像もつかないリスクです。この果実農園という職業をしている農家さんに対しては、尊敬しかありません。

山梨県産 スイートネクタリン

ねっとりとした食感と甘さは格別。桃と同じくらいの大玉で、果肉もしっかりしていて身崩れしにくく、酸味も甘味も十分にあるバランスのとれた美味しさです。

<予約受付中!7月中旬から出荷予定>

ネクタリン 大玉 2kg(7~9玉)
PRICE:3,480円
STOREで購入

吉田農園

ネクタリンは樹勢が強く、こんな大きな木になってしまいます。不安定な脚立に登って、一玉ひと玉手の感触を頼りにかごに採ってゆきます。普通の桃の木はこんなに大きくないので、脚立もこんなに高いものは使わないのですが、身長の高い丹澤さんでさえ一番高い部分に登ります。若いうちはいいですが、年を取ったら難しい仕事です。そして柔らかい桃はそっと収穫して大事に大事に扱わないと商品になりません。

かごリレーネクタリン

産直の桃は高く見えるかもしれません。でも仕事を目の前で見ていると、おいしい桃を食べる為には、決して高くないと思えます。産地直送の果物は、収穫してから直接農家さんが発送するので、新鮮かつ完熟に近いものが届けられます。また農家さん自ら直送するので責任感が違います。美味しい桃と自ら判断したものをお届けすることができるのです。

1年間を通した作物に対する愛情と、長年培われた経験と実績の証がつまった桃です。今を逃すと来年まで会うことはできません。

COMMENTS

“山梨で出会った珍しい桃” への1件のコメント

  1. 林 香苗 より:

    私もきらら姫を一本育てています。今から15年程前にタキイのカタログから選んで買いました。しかし、その後この品種は見聞きしませんし、育て方を調べても出ていません。収穫期や手入れの方法が分からず随分無駄をしました。何しろ桃を育てるのは初めてで、しかもきらら姫一本だけですから。しかし、ここ二、三年やっと美味しい桃が作れるようになり、差し上げると、買ったのより味が良いと喜ばれ、自慢の作物に成ってます。きらら姫の品種名を強調して伝えています。

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