一日も、一年も、一生も。
私たちの生きる時間は、大きさも色もさまざまな巡りで溢れています。
ひとつの巡りを終えたら、次のひと巡りへ。
ひとつの巡りの中で、小さな巡りがいくつも起こっていたり。
巡りはくり返し、重なりあいながら、人生は満ちていくのでしょう。
これは、沖縄県竹富島在住の写真家・水野暁子(みずのあきこ)と、
神奈川県の西湘地域を拠点とする文筆家/映像作家・関根愛(せきねめぐみ)による
往復書簡『あきことめぐみの、旅のひとめぐり』。
旅の途上で出会う人びと、風景、すてきなもの、時間とのさまざまな巡りあいを、
言葉と写真を通してささやかに伝え合います。
めぐみさんへ
この連載を始められることに心から喜びを感じています。
昨年めぐみさんに出会い、「いつか、何か一緒にやりたいね」という言葉から始まったこの往復書簡、旅先から手紙を書くように、小学生の頃に書いた交換日記のように、私が旅先で感じた光や風をふわりと包んでお届けできたら幸いです。
昨年末、石垣島から飛行機で約1時間の沖縄を訪れた時のこと。(八重山では、沖縄本島へ行くとき、「沖縄へ行く」という。同じ沖縄県だけれど、「沖縄へ行く」と言うとき、ひとつの島からもうひとつの島へ行くのだという実感が湧くから不思議だ)
那覇の映画館で観たい映画の上映があり、取材仕事を上映日に合わせて沖縄へと飛んだ。
取材のパートナーは、沖縄在住で仕事仲間の幸子さん。2人で一緒に同じ場所を取材するのは初めての試みだった。彼女はそう遠くない過去に、最愛のパートナーを亡くされていた。メールやダイレクトメッセージではなく、顔を見て話がしたいと思っていたこともあり、一緒に仕事ができることが嬉しかった。
那覇の桜坂劇場で観たかった映画を鑑賞した翌日、取材先へ幸子さんと赴いた。道すがら車の中で、幸子さんはスッと背筋を伸ばし、日々のこと、仕事のこと、そしてパートナーの旅だちについて話してくれた。彼女の発する声には、冬のよく晴れた空を見上げたときみたいな清々しささえ感じられ、私の心配を吹き飛ばしてくれた。「思っていたより、ずっと早くに立ち直れた気がする」と話す彼女の口調は素直で、淡々としていた。「大丈夫そうで安心した」と幸子さんに言ったら、「大好きだと伝えられていたから、悔いがないのかもしれない」と返ってきた。
車のハンドルを握り、ちょっとたくましく見える彼女の横顔とは裏腹に、心に寄り添うようなやさしい響きのある言葉だった。受験生の娘への心配事や、病気の飼い猫のことで気分が沈んでいた私は、なんだか救われた気分になった。流れゆく窓の外の景色を背景に、彼女の凜とした横顔を、心のシャッターを切って記憶した。
(次のページに続く)
COMMENTS