京都は宇治、平等院にもほど近い場所に「昇苑くみひも」の工房はある。表参道の周辺は観光客も多くにぎやかだが、工房があるのは細い道をすこし入った場所なので、観光地とは思えないくらい閑静で落ち着いている。
組紐といえば、映画『君の名は。』で注目を集めた伊賀の組紐を思い浮かべる人も多いと思うが、古くから日本では京都が組紐の産地だった。江戸に幕府が開かれた頃から、組紐職人が江戸に移り、明治になってから三重県の伊賀にその技術が移された。京都・江戸・伊賀の3つの産地を中心に日本の組紐文化はつくられてきた。
長い歴史をもつ組紐だが、時代の移り変わりとともに使われ方も変化している。もともとは仏教の伝来とともに、伝具、経典、巻物の付属品の飾り紐として日本に渡来した。鎌倉時代には武具の一部、安土桃山時代には茶道具の飾り紐として使われた。明治以降、武具の飾りとしての需要がなくなってからは、帯締めなどの装身具として定着している。
昇苑くみひもも1948年の創業当初は主に帯締めを生産していた。「梶 昇」と「梶 操」の2人の創業者は、昔ながらの伝統的な手組みの技術で組紐を作っていたが、やがて組紐作りの世界にも機械化の波がやってくる。そんな中、昇苑くみひもでは、いち早く製紐機の導入を決断し、機械を扱える職人の育成を行いながらも、手組みによる組紐作りの技術向上を目指した。
現在も昇苑くみひもの工場には、約60台の製紐機が当時のまま動き続けている。1本のベルトを動力源にして、シンプルな歯車の構造で工場全体の機械を動かしている姿はまるでからくり屋敷のよう。
古い機械なので、メンテナンスを頼める業者も少なくなっており、機械を動かす職人が自分たちの手で修理も行う。もちろん彼らは伝統的な手組みの技術や知識も豊富。だからこそ機械を使用して様々な組紐作りにこだわることができるのだ。それが、昇苑くみひもの製品が工業製品としてではなく、工芸品として評価される理由なのだろう。
また昇苑くみひもでは、糸の染色から紐の製造と加工にいたるまで、組紐作りに関する工程を自社で一貫して行っている。染色を自社で行うことで、少量の生産やカラーオーダーなどの要望にも柔軟に対応することができる。
これまでも時代の変化に合わせて、姿かたちを変えて残り続けてきた組紐だが、現在では、さらに製品のバリエーションが増えている。帯締めはもちろん、携帯ストラップや時計のベルト、ブレスレットや指輪など洋服にも合わせやすいアクセサリー。昇苑くみひもでは、現代人のライフスタイルに合わせた商品開発を意識している。組紐をそんな様々な製品の形に仕上げていくのは、女性たちの完全なる手仕事だ。
私が訪れた時は、5~6名の女性たちが作業机を並べて、手元をライトで照らしながら細かい手仕事をしていた。こういった職人たちのアイデアから新しい商品が生まれることも多いという。商品の配色やデザインなど、実際に手を動かしながら次々と新しいものが出来上がっていくのだ。
作業をしている手元の写真を撮らせてもらおうと女性の職人さんたちに声を掛けた。「大したことしてないけどいいの?」と皆さん謙遜されたが、その顔はいきいきしており、自分の仕事に誇りをもっていることが感じられた。自分の手で、ものづくりをしている人の表情だ。
Kumihimo Factory
Showen Kumihimo Co. was established in 1948 in Uji City, Kyoto. Soon after its establishment, the world of kumihimo braiding became increasingly mechanized. With the increasing use of machines, the company made the decision to quickly install braiding machines and train craftsmen who could handle the machines, striving to utilize handcrafting techniques in order to improve kumihimo braiding technology.
ENGLISH
At the Showen Kumihimo factory, approximately 60 braiding machines continue to operate exactly as they did when they were first installed. All of the machines in the factory can be controlled by operating a simple cog wheel mechanism. The mechanism is driven by a single belt, giving the impression like a house of full of tricks.
As the machines are quite old, there are only a few operators who can be entrusted to perform maintenance. Craftsmen who operate the machines also carry out their own repairs. Naturally, they are experts in traditional hand-braiding technology. As a result, they are able to stick to creating a large variety of kumihimo braiding even by using the machines. That is the reason why products made by Showen Kumihimo are not considered factory-made products, but held in high regard as artisan products.
昇苑くみひもの商品を購入する
1948年の創業以来、着物の帯締めをはじめ、高品質な絹の組紐製品を製造しています。STOREでは、ブレスレットや指輪、カードケースなどを販売しております。
STOREで購入
COMMENTS