歴史ある焼き物の町・瀬戸
愛知県の瀬戸は、日本を代表する焼き物の産地として、「瀬戸物」という言葉とともに世の中に広く知られている。その歴史は1000年を遡り、日本の六古窯の一つにも数えられている。しかし現在、瀬戸や常滑を含む愛知県の陶磁器の生産量は、日本全体の約5%ほどしかないそうだ。バブル期に生産のピークを迎え、それ以降は需要の減少や生産者の高齢化が進んでいる。(一方、隣県の美濃はというと、約40%のシェアを誇る一大産地になっているのも興味深いが、それはまた別の機会に取材したい)
今回は歴史ある瀬戸の町で、三代に渡って陶磁器の生産に携わっているエムエムヨシハシを訪ねた。工房がある品野という地域は、瀬戸の中でも昔から陶磁器産業が盛んなところだ。現在でも周辺には陶磁器関連の会社がたくさん残っているが、すでに廃業してしまっている工房もちらほら目につく。
瀬戸では、バブル期に生産量が増加する中で、製造の分業制が確立されていった。窯、釉薬、素地、型など、それぞれの工房が専門分野に専念して、瀬戸という産地全体で大量の需要に応えるためのシステムが作られたのだ。そしてエムエムヨシハシは型屋として陶磁器生産の一翼を担ってきた。型屋とは、製品の原型から量産するための型を作る工房だ。
株式会社エム・エム・ヨシハシ
創業以来、瀬戸で型の製造を通じて陶磁器産業の一翼を担ってきた。型屋は製品の原型から量産するための型を作る工房だが、最近ではオリジナル製品の開発にも力を入れている。
愛知県瀬戸市品野町4丁目22番地
新しいものづくりへの挑戦
瀬戸の町はバブル景気の終焉とともに生産規模が縮小してゆくと、分業制が成り立たない状況に陥っていく。工房の数が減り、職人の高齢化も進んでいった。そんな中、エムエムヨシハシはオリジナルブランドを立ち上げて、独自のものづくりの道を歩みはじめた。瀬戸の中でも、型屋がオリジナル商品を手がけることは非常に珍しい試みだった。
オリジナルブランドの立ち上げを決めたのは三代目の吉橋賢一さん。若い頃は家業を継ぐつもりはまったくなく、東京でファッションデザインの勉強をしていた。アパレルのパターンの勉強に夢中になっているとき、その仕事が家業の型屋とどことなく似ていることに気が付く。古い業界だが、自分なりに新しい仕事ができるならと思い、瀬戸にもどって型屋を継ぐことを決めた。
しかしオリジナルブランドの立ち上げには、歴史ある瀬戸ならではの苦労も少なくなかった。型屋とは、あくまでも型作りを専門に請け負う工房であり、窯もなければ絵付けもできない。商品を製造するためには、協力してくれる窯元を探さなければいけないが、それが簡単にはいかなかった。もともと仕事を依頼する側だった窯元にとっては、型屋の仕事を引き受けるということは立場が逆転することになる為、あまり良い顔をされなかったのだ。
HORITSUKE 馬の目プレート
エムエムヨシハシの代表作ともいえるこのプレートは、馬の目皿という古くから瀬戸で焼かれてきた伝統的な丸皿がモチーフになっている。通常は鉄釉で描かれる模様を「彫付」によって表現した型屋ならではのアイデアだ。色は黄瀬戸、織部、志野といった瀬戸で古くから使われてきた釉薬から選ぶことができる。
オリジナル商品を作るとき、自分の想い描くイメージを窯や釉薬の職人たちと共有することがとても重要になる。色味や質感、形状から、最終的な販売方法や使用方法のイメージまで丁寧に伝えて共有してもらった。結果的に、この商品は完成までに3件の窯屋を転々として、ようやく完成した。窯屋によって使用する土や焼き方が異なるため、変形の仕方も変わってくる。窯屋が変わるたびに型を作り替えた。
HORITSUKE 馬の目プレート
馬の目皿は江戸後期から末期にかけて瀬戸で焼かれた器で、瀬戸の焼き物を語る上で欠かすことの出来ない器。通常は鉄釉で模様が描かれるが、「彫付」で表現することにより、模様の大胆さが際立ち和洋問わず使える器になった。
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AND C
この「AND C」のシリーズは、賢一さんが型屋を継ぐと決めた当初から温めていたアイデアだ。使いやすさや収納のしやすさを追求して、本当に普段使いしやすい器を目指した。試行錯誤を繰り返しながらディテールを調整していく作り方は、大きなメーカーやブランドにはできない、小さなファクトリーならではの強みだ。実際に使ってみると型屋ならではの造形へのこだわりを感じることができる。
カラーも最初は白の1色だけで作ろうとしていたが、周囲からのアドバイスもあり最終的にはカラフルな6色展開に。豊富なカラーとサイズのバリエーションで、小さな子供から大人まで家族みんなでいつまでも使い続けられるシリーズになった。
AND C
特に意識することなく毎日使えるシンプルな器で、どんなシーンにも合わせられるようにと考えられている。子供たちが成長して大人になっても使える飽きのこないデザインが魅力。
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Oval series
こちらは一番最近ラインナップに加わったOvalシリーズ。もともとはラーメン屋で餃子がのっているような楕円皿を作ろうとしていたが、紆余曲折を経てこの形にたどり着いた。形状や釉薬を何度も変えて作り直し、3年かけてようやく完成した。
現在でも瀬戸には約200件の窯屋があるが、その中でも年齢が同じくらいで考え方が近い職人と一緒に仕事をするようにしている。彼らの意見を取り入れながら商品をブラッシュアップしていくのだ。サンプルを作り始めてから完成するまで長期間かかることもある為、それに付き合ってもらえるパートナーの存在がとても重要になる。
今後、エムエムヨシハシは食器以外の製品作りにも積極的に取り組んでいきたいという。例えば瀬戸ではもともと人形などの置物がたくさん作られていた時代がある。現在のライフスタイにもフィットするオブジェや雑貨を作って、日常生活の中に彩りを与えていくことが、エムエムヨシハシのこれからのヴィジョンだ。
Oval series
紆余曲折の末にたどりついた独特のぽってりとしたフォルムのオーバルプレート。どんなお料理にも合うアースカラーの美しさとオーブン使用可の使い勝手の良さが特徴。
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