近年、人々の買い物の仕方が変わってきているという。すこし前までは、100円ショップで日用品や雑貨を買い揃え、ファストファッションブランドは人々でごった返していた。しかし現在、そんな熱病のような消費行動は、すこしクールダウンしているようだ。
最近の若者たちは買い物自体をしなくなったというし、本当に欲しい物しか買わないそうだ。シンプルライフやロングライフデザインなんていう言葉もよく耳にする。
特に顕著だと思うのが、いわゆる民芸品や工芸品などの手仕事の商品が注目されていることだ。雑誌では度々、民藝や伝統工芸の特集が組まれ、よほど反応がよいのか、別冊が出されたりしている。
東京のセレクトショップでも、アクセサリーや雑貨類と一緒に、さりげなく器が並ぶ。伝統的な模様や素材感が若者たちの目には、逆に新鮮に映るのか、けっこう手に取って見ている人も多い。
しかし、その並びに漆器を目にすることは少ない。たまに見かけたとしても、売り場の中で置物と化してしまっている場合がほとんど。確かに漆の商品は、値段もそれなりにするし、手入れもめんどうそうなイメージがあり、躊躇されてしまうのかもしれない。
今回は、そんな漆器について紹介したいと思う。取材に行ったのは、香川県の高松市で代々、漆器を作っている老舗の工房。実は、香川はメジャーではないが、古くから漆器産業が盛んで、独自の技法や特色を持つ面白い産地なのだ。
今回お話を聞かせていただいたのは、高松市に工房を構える中田漆木の中田大輔さん。中田漆木は、戦前に大輔さんのおじいさんが丁稚奉公からはじめ、それから約80年続く老舗の漆器屋だ。
昔から香川にはOEMで製作を請け負う漆器屋が多かった。特に座卓に関しては、日本の家庭にあった座卓(こたつも含めて)のほとんどが香川で作られていたといっても過言ではない。そのため、表に名前は出ないものの、漆器の生産量が日本で一番だった時期もあるほどだ。まさに日本の漆器産業を影で支えてきた土地だといえる。
しかし、バブルが終わる90年代はじめには、他の産地と同様に下請けの仕事が減ってしまう。その頃から中田漆木ではオリジナル商品の製作を本格的にはじめた。大輔さんの父親は、もともと職人であり、公募展やグループ展に作品を出すクラフトの作家でもあった。
現在の中田漆木は、大輔さんの父親と弟さんがオールラウンドに全ての作業をこなし、長男の大輔さんが下作業や販売・営業を担当。大輔さんの奥さんが上塗りや絵付けをしている。昔から家族を中心に製作を行ってきた。香川では他の漆器屋も同じような家内工業が多いそうだ。
中田漆木の商品は、お箸を見ても分かる通り、豊富な絵柄が特徴で、ポップでかわいらしいデザインが魅力だ。他の産地の漆器は、朱と黒の2色を使うことが多いが、香川では江戸時代から、朱と黒に加えて青、黄、緑の色漆が使われてきた。さらに戦後になると、チタニウム顔料の白い漆が開発されて、それを利用して淡いペールトーンの色合いまで表現できるようになった。
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