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ブロックプリントとの出会い
はじめまして。ブロックプリンターの向井詩織と申します。私は西インドにあるブロックプリント工房で布を染めている、工房初の外国人職人です。
この工房を初めて訪れたのは5年前。当時、世界中を旅していた私は、南米、中米、オーストラリアを経て、アジアを放浪していました。タイからインドに入り暫く経った頃、インド随一のテキスタイル博物館の存在を知り、何と無しに寄ってみたのが運命の岐路。2時間ほどの鑑賞を終え、出口に着く頃には呆然自失となっていました。動く気力もなく、博物館の門の前に座り込んでしまったことを覚えています。(その間、何人のトゥクトゥクドライバーに話しかけられただろう。)
2日後、もう一度訪れてみるも、やはり放心。さらに後日、念のため、もう一度だけ見ようと思い、再々訪問。結果は変わらず、トランス状態。インドの布の世界に足を踏み入れようと決意した瞬間でした。
その後は、西インドの各地に点在する布の工房を訪ね、現在お世話になっているブロックプリントの工房に辿り着き、その技術を学ばせていただけることになりました。
テキスト・写真:向井詩織
インドの西の果て、カッチ地方のアジュラクプールで天然染料のブロックプリントをしています。本来はムスリムだけ、男だけの工房ですが、テキスタイルアーティストとして単身で乗り込み、従来にない、この技法ならではの模様を表現しています。
SHIORI MUKAI TEXTILE
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道具や染料はすべて自然のもの
ブロックプリントに馴染みの無い方も多いと思いますので、ちょっとだけ、この染色技法のことを説明させてください。
ブロックプリントの「ブロック」とは、主に木版のことを指しています。手彫りで細密な模様が施された木版で、スタンプのように布に染料を押していく、インドの伝統工芸です。一回一回、人の手で隙間なく連続して押すことで、リピートする模様が染められます。
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私のいる工房では、染めの工程は全部で16プロセスあります。布の精錬、三重四重にも重ね押しするハンドプリント、全身を使った布の洗い、煮詰め、媒染等、全て人の手で行われています。使用する染料や道具、施される模様は、ほぼ全て自然由来です。
こんな綺麗な模様も、まずはラクダのウンチを砕いて、布の不純物を取り除く液体を作ることから始めます。色々とスゴイでしょ?
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染めのために作り上げられた村
工房があるアジュラクプールという村は、比較的新しい村です。
この村の住民は、もともと別の村に住んでいました。しかし、2001年、この地方を襲った大地震により、それまで染めに使用していた川の水質が変わり、それによって染め上がりの色も変わってしまったのです。
住民たちは染色に適した水を求めこの地に引っ越し、驚くなかれ一から村を作り上げました。つまり、アジュラクプールは染めが主軸にある村であり、住民男性の殆どは、染めに関わる仕事をしています。もちろん、学校や売店などもあり、1つの村としても成り立っています。
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遠い場所の生活や人、歴史を知れることがすごく素敵で嬉しいと感じる文章でした。これを読んでいる短い間にも素敵な時間を頂いた気がします。