新商品に着手してから完成まで結構時間がかかりましたよね(笑) 色々と試行錯誤もあったと思いますが、製作の苦労やこだわったポイントなどを教えてください。
モチベーションが続かなかったり寄り道したりする癖がなかなか抜けず、かなり時間がかかってしまいました(笑)
連載させていただいている『若手職人の絶望日記 第5話』をお読みいただけるとそのあたりの事情というか、人間性をお察しいただけるかと思います。
こだわったポイントの一つに、「漆器っぽくない原始的な感じ」というのがあります。漆は縄文時代から使われていた塗料でもあるので、近代的な伝統工芸としての「漆器」よりも、「削りだした木のうつわに漆の樹液を塗った」という原始的なイメージに近づけてみたくて。
その中で、「荒さと美しさのバランス」に苦悩していました(笑) キレイすぎると気おくれしそうだし、荒すぎると木の個性が感じられなかったり、素人っぽさが出てしまったり。結果的に、外側は適度にゴツゴツした感じで削っているのですが、内側は漆塗りも含めて比較的キレイに仕上げています。
色々と試作をする中で実際にシチューを食べたりしたのですが、やはり美しい木目が見える喜びというのは魅力的だなとあらためて感じるきっかけになりました。
最後の最後まで粘っていたのは知っていたので、完成品が素晴らしいバランスに仕上がっていて感動しました!商品のディテールについても詳しく教えてください。
粘りに粘り、悩みに悩んでいたのでそう言っていただけて嬉しいです(笑)
各部の作り込みでは最初に、「持ち手のフィット感」を検討しました。持ち手を上から親指で押さえる天面部分を少しくぼませたりと、小さな工夫をほどこしています。
外側は荒っぽく削り出しているので形状や厚みもそれぞれ微妙に違いますが、一つずつ自分の手で「握りやすい」と感じるまで、削っては握ってを繰り返しています。見た目のゴツゴツ感とは裏腹に、やさしく手にフィットするギャップを感じていただけるのでは思います。
木地でいうと、厚みに関しても試作を重ねて悩んだところです。薄くて軽いのは実用的な感じがするけれど、素朴さや暖かみが薄れてしまうので、「厚ぼったい」と感じるギリギリまで厚みと重みを残すことにしました。これも、少し削っては、厚みや重みを確かめを繰り返して、「これや!」と感じるまで微調整を重ねています。
漆塗りも厚く塗って丈夫な塗膜にしようと思っていましたが、「木の質感」をより多く残すことを優先させて、漆を摺り込んでは拭き取ってを繰り返す「拭き漆仕上げ」に決めました。厚く塗った漆よりも塗膜が剥げるのが早いので、初回の塗り直しは無料で承ります。安心してお使いいただければと思います。
最後に商品に込めた想いなどお聞かせください。
北海道でシチューを食べたいうつわのコンセプトは、「日常から離れ、社会に左右されない自分を取り戻す時間」をイメージして作りました。
話が少し逸れますが、昨年保育士の資格を取得して、教育現場を垣間見られる副業をしていました。その中で、日本の教育は本当に「先生や大人の言う事をよく聞く画一的な ”いい子” 」を好む事が多いんだと感じました。(もちろん全ての現場がそうであるとは思っていません。)
ある年末、一人の子が、「来年はいい子になる魔法」とやらを繰り返しかけられているのを目撃した事がありました。感じ方は人それぞれですが、僕には「今のお前は悪い子、ダメな子」と言っているように感じました。
「個性を尊重」とか、「多様性を受け入れる」という言葉はよく聞きますが、実際には「従順な”いい子”」を求める空気が強まっていると感じる事も多いです。
そういった経緯もあり、周囲の人間関係や社会の風潮に左右されない、自分で大切にしたいと思える確固たる自分を取り戻すための時間や場所が必要になるという想いを強くしました。
「北海道でシチューを食べたいうつわ」の荒さには、「完璧でなくていい」、「キズひとつない美しさでなくていい」という想いも込めています。このうつわが自分を取り戻したり、自分だけの新しい価値観を作るきっかけになれば嬉しいです。
そして、困った時は北海道に行こう!笑
北海道でシチューを食べたいうつわ
旅やキャンプなどアウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんなコンセプトを持つerakkoからスープカップが登場しました。工芸品ではない漆器の魅力に気づかせてくれる素朴で温かみのあるうつわです。
価格:15,400円(税込)
生産地:京都府
素材:ケヤキ・漆
サイズ:W190×D140×H60
STOREで購入
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