すべて自分で作ってみせよう!
漆器業界における分業制は、大きく3つに分けられる。木工をする「木地師(きじし)」と、それに漆を塗る「塗師(ぬし)」、装飾を施す「蒔絵師(まきえし)」である。前述のとおり、私の父は塗師である。
そして昨今、京都にはお椀などの丸い木地である、「挽き物(ひきもの)」を担う「ろくろ木地師」の数が圧倒的に不足している。(挽き物とは、高速回転する機械に木材を固定し、専用の刃物で削って仕上げる丸い細工物。)
京都で漆を塗るお椀や棗(なつめ)など丸い形状の木地の多くを、北陸地方に頼っているという状況なのだ。北陸地方の木地師には仕事が多く持ち込まれ、数か月待ちという事もめずらしくないと聞く。
京都からは地理的にも離れているため、一点物の作品などに関しては、イメージしていたものと違っても仕方なくあきらめたという話もちらほらと。私の場合は、新商品開発のために試作を繰り返していたら、限られた資金などあっという間に尽きるに違いない。
そんなことになれば、アクション映画のごとく迫りくる壁に挟まれ潰えるという結末を迎えるのは想像に難くない。というかもう、壁はすぐそこまで迫ってきている。20万円など一日の大半を部屋の隅で体育座りして過ごしていてもすぐになくなるだろう。
「ならば!ならば私は!機械を手に入れて、すべて自分で作ってみせよう!」
自分で作る事ができれば、お金をかけずに納得がいくまで試作を重ねることができる。一瞬、自営業の心構えを説くどこかの本に、「”自分でやればタダ”という考えは捨てよう。」と書いてあったのを思い出した。
「いいわ。そんなんもういい。どうせボクは自分でやるアホなんや。機械を買って退路を断てばいいんや。」と、瞬時に開きなおった。
忘れもしない2016年の1月2日、私は挽き物を作るための木工旋盤と、木材を切断するバンドソーをネット通販で注文した。踏み出すと決めても、注文確定ボタンを押すのに1時間を必要とした。総額20万円。全財産を投じたのだ。
3日後、運送屋さんの手によって大荷物が工房へと運び込まれてきて、父はたいそうおどろいていた。機械を買ったことは事後報告であったのだ。独学で挽き物をやるなどと言えば、いったん落ち着いて考えろと言われるのが関の山だ。大事な決断は意思が弱らないうちに実行してしまうに限る。
そうして、絶望と希望を繰り返す独学の木工ライフが始まった。1年半後、erakkoというブランドを作り、アウトドア用のお鍋に収納できる漆器、「おとも椀」がデビューした。
そしてなんと!その「おとも椀」を現在ネットで購入できるのはTABITOTE STOREのみである!
いまだ自販機でジュースを買うことすらためらわれる経済状況が続いておりますが、日々奮闘中でございます。みなさま応援のほどよろしくお願いいたします。
第二話「ガンダーラの職人」を読む →
イラスト:SORRY.
和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。
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写真:其田有輝也
erakko おとも椀
erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。
旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれたのがerakkoのおとも椀です。天然素材である木と漆を味わうだけでなく、アウトドアで使うための工夫を施した本格派の作りになっています。
カエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットなど、おとも椀の木地には様々な樹種を使用しており、それぞれがもつ個性を引き出すことにもこだわっています。木肌の色や木目を活かすため、拭き漆に使用する漆は樹種ごとに使い分けています。
おとも椀には、高台(こうだい)といわれる底の立ち上がりがありません。野外での使用を考え、重心を低くして転びにくくするためです。これ以上ないシンプルさと、ふんわりしたやさしい丸みで、いつまでも両手で包み込んでいたくなるお椀です。
erakko おとも椀を購入する
旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれた木と漆のお椀です。樹種はカエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットの4種類からお選びいただけます。
生産地:京都府
サイズ:Φ110×H55
仕上:拭き漆
付属品:風呂敷(むす美 / 日本製)
STOREで購入
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