木工旋盤

翌朝の午前、おといねっぷ美術工芸高校に到着。

受付で新ちゃんのフルネームが書かれたカードを渡され身に付ける。寮生活のため久々の再会を喜び合う保護者と生徒で賑わう中、「歳の離れた兄ですよ」といった雰囲気を醸しながら入場した。

作品展は絵画も木工作品も力作揃いであった。中にはテーブルセットという大物まであり、私より確かな知識と技術を感じる。使用している木材も広葉樹が6~7種類はあり、木材の豊富さも伺える。

展示も見終わった頃、「あっきー」と声をかけられた。新ちゃんが顔を見せに来てくれたのだ。その際に、「さっき先生に、お父さん似てるねって言われたよ。」と伝えらえた。そこは兄と間違えるべきなのだが。

午後からは新ちゃんも出演する3年生の演劇鑑賞である。鑑賞が終わったあとは用紙に感想を記入する。このアンケートは後日校内に貼りだされ、何点かは昼休みの校内ラジオで読み上げるという。私はどうしたら読み上げてもらえる内容になるかを考えた。

その結果、ストーリーや出演者への言及はもちろん、背景画や大道具もさすが美術工芸高校であったと惜しみない賛辞を送り、さらには「ちゃんと聞いてましたよ」とばかりに校内放送で流れていた裏話の感想まで書き込んだ。

そして最後に、王様の役柄やセリフ(新ちゃんが演じていた)がとても面白かったと、遠回しに彼を持ち上げる内容を書き添える。(記入した感想はすべて本心です。)我ながら完璧だ。記入者のラジオネームはもちろん、「あっきー」である。

用紙の末尾には〇をつける項目があり、「保護者 ・ 生徒 ・ 教諭」と並んでいる。私はどれにも該当しないが、「兄の気分で」ともらった連絡を思い出し、「保護者」の項目から斜め下へ続くよう、「というか、兄の気分」と書き足した。

さらに、満足のいくアンケートが書けて気を良くしていた私は、「というか、ただのキャッチボール友達」という一文も加える。最終的にアンケートの末尾は、「保護者 というか、兄の気分、というか、ただのキャッチボール友達」という逸脱した内容で締めくくられた。

ボロ車

私が過ちに気付いたのは用紙を提出した後だった。本来はコロナ対策のため保護者家族の招待である。それが家族どころか親族ですらない、「ただのキャッチボール友達」という異物が紛れ込んでいたと、大泥棒のようなやり方で自ら正体を明かしてしまった。

後日、コロナ対策に心を砕いた先生がアンケートに気づき、「誰ですか!ただのキャッチボール友達を校内に入れたのは!」と騒ぎになるかもしれない。「あっきー」と書かれたラジオネームを見れば、当該人物が私であると新ちゃんは気付くだろう。そして、何らかの注意を受けるかもしれない。そうなれば申請者のカカさんも異物を送り込んだとしてお叱りを受けるだろう。

私は33歳にもなって高校生をキャッチボール友達だなどと言いふらして皆様に迷惑をかけたかもしれず、自身の軽率さを恥じた。その後すぐに保護者退場の時間がきて反省しながら駐車場に戻った私は、33歳にもなって使い古しの軽自動車で来校した事も恥じた。

そして帰り際の混雑のなか新ちゃんを見つけたのだが、乗っている車がダサすぎて声をかけるか一瞬迷った。迷った末に声をかけ手を振ったのだが、彼の背後にいた家族までいっせいに視線を向けてきた。33歳にもなって擦り切れた軽自動車から手を振る姿を見つめられた私は、大穴があったら車ごと突入したいほど恥ずかしくなった。

そのようにして学校祭を後にした私は、アンケートや車選びを反省しながら帰路につく。反省したまま道の駅で購入した甘えびの塩辛ワンパックを直後に食べ尽くし、海が見える温泉につかり、人気の海鮮丼に舌鼓をうち、また温泉につかり、ついにはお土産に買った鮭とばをガマンしきれず開封するなど、反省の意を表すような自粛気味の帰り道となった。

その年の秋、また雪月花廊へ訪れると偶然にも新ちゃんの帰省と重なった。キャッチボールをしてから皆で夕食を囲んでいた時、私が書いた例のアンケートが校内ラジオで読み上げられたと聞いた。あのアンケートは我ながらよく書けていたと反省も忘れて喜んだ。

次は工芸家として招待されるよう精進しようと思う。

次回、第十三話。いよいよ憧れの田舎暮らしが語られる!

← 第十一話「職人、小屋を借りる」を読む

イラスト:SORRY.

和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。

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写真:其田有輝也

北海道でシチューを食べたいうつわ

北海道でシチューを食べたいうつわ

今回は柴田さんが愛する北海道での心温まるスピンオフ的なお話でした。そんな北海道での経験から生まれたのが、昨年発表した「北海道でシチューを食べたいうつわ」です。

ぜひ寒い冬の北海道をイメージしながらこの器でシチューを食べてみてください。商品のご注文はオンラインストアーからお願いします。

― 商品のコンセプト

「雪に覆われた北海道の丸太小屋。
そこで食べるシチューをイメージして作ったうつわ。」

erakkoの新商品として作ったうつわは、ひたすらに北海道をイメージして作りました。なぜなんだと聞かれたら、北海道(の田舎)が好きだからです。

雄大な自然と共に暮らす人々の営み。
荒々しさと素朴さの中にある美しさ。
異国の雰囲気も漂わせる多様性。

そんな要素を一つのうつわに込められたと思っています。日常から離れ、社会に左右されない自分を取り戻す時間に寄り添える存在になれると幸いです。

北海道でシチューを食べたいうつわ

― 商品の特徴

本製品を作る上で、木地づくりから漆塗りにいたるまで、「荒っぽさの中にある温かみ、美しさ」を大切にしました。「手作りならではの素朴味あるやさしい粗さ」を感じてください。

木地の外側はざっくりとした削り味ですが、ケヤキの木目も楽しめるよう内側は丁寧に仕上げています。また、持ち手の上の部分を少しくぼませて指が置きやすく握り感をよくしています。

塗装は薄い塗膜で木目がよく見える「拭き漆仕上げ」です。初回の塗り直しは無料で承りますので、安心して日々の食事にお使いください。

うつわのサイズはシチューを食べるのに丁度よい大きさにしていますが、大きすぎず小さすぎず、絶妙な幅と深さを確保しているので、いろいろな料理にお使いいただけます。

北海道でシチューを食べたいうつわ

旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんなコンセプトを持つerakkoからスープカップが登場しました。工芸品ではない漆器の魅力に気づかせてくれる素朴で温かみのあるうつわです。

価格:15,400円(税込)
生産地:京都府
素材:ケヤキ・漆
サイズ:W190×D140×H60

STOREで購入

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