2019年の3月上旬、島根県の松江に行く機会があった。島根といえば、柳宗悦先生をはじめ民藝運動のメンバーが度々訪れ、現地の作り手と交流していたことで知られる、民藝ファンなら一度は訪れてみたい土地だ。4日間の滞在中、たくさんの工房を見学させていただき、島根に根付くものづくりの文化を感じることができた。だいぶ時間が空いてしまったが、今回は出雲の手仕事を巡る旅をお届けします。
1日目 出雲大社
出雲空港まで東京から飛行機で約1時間半。何をする間もなく、気付けば窓の下に宍道湖が見えていた。普段は電車の旅が多いので、飛行機だとどうも距離感がつかめない。
今回僕を松江に呼んでくれた豊田さんの案内で、空港からまずは出雲大社に向かう。今回の旅は全くのノープラン。豊田さんに何から何までお任せしていた。
出雲大社に着いたのはまだ午前中。雨が降っているにも関わらず、参拝客が神楽殿の巨大しめ縄を背景に記念撮影をしていた。真下から見上げるとなかなかの迫力。地元産の稲わらを使用して手作業で作られているという。重量は約5トン。落っこちてこないものかと、冷や冷やしながら見上げる。
小雨がぱらつく中、拝殿や御本殿を二拝四拍手一拝しながら歩く。この時期の島根はずっとこんな天気らしい。山陰地方という字面通りだなと思いながら、今回の旅は写真は期待できないかも・・・と覚悟を決める。
出雲大社の参拝を済ませると、車は松江市内を目指して宍道湖沿いの道を走る。途中、湖畔にある喫茶店に立ち寄った。宍道湖を眼前に臨む抜群のロケーションでテラス席もある。晴れていたらさぞ良い景色だろうとまた曇天を恨む。
この店では島根県内にある45の窯元のカップから好きなものを選んでコーヒーが飲める。写真入りのカップリストから僕が選んだのは森山窯のカップ。河井寛次郎の最後の内弟子といわれる森山さんが1971年に築いた人気の窯だ。民藝の雰囲気たっぷりのカップでコーヒーをいただいてすっかり満足する。
2日目 湯町窯と袖師窯
旅館の朝食には、やはりしじみの味噌汁がついた。しじみは宍道湖の名産品だ。朝食後、晴れ間が出ていたので近所を散歩してみた。旅館の前を宍道湖にそそぐ大橋川が流れている。穏やかな川面には小舟が2艘浮いており、どうやらしじみ漁をしているらしい。旅館のご主人の話では、漁をする場所は毎日変わるそうだ。
この日の午前中は、今回の旅の目的である地域おこし協力隊の講習会があった。豊田さんの車で松江市支所に向かう。参加者の皆さんは協力隊の活動をしながら、松江に定住するために仕事や住まいの準備をしている。地元の会社に就職する人もいれば、自分で事業を起こす人もいるそうだ。
今回、僕はTABITOTEの活動内容についてお話をさせてもらった。趣味から始まった活動で、語るに足らない内容なのではと心配していたが、皆さん熱心に耳を傾けてくれて一安心。
湯町窯
島根県松江市玉湯町湯町965-1
JR玉造温泉駅から徒歩1分
講習会を終えて、午後は支所から近い湯町窯を訪ねた。数ある島根県の窯元の中でも、湯町窯は必ず行ってみたかった窯の一つだ。湯町窯といえば、まず思い浮かぶのは、何と言ってもバーナードリーチの指導で生まれたエッグベーカーだろう。
店の奥の工房からご主人が出てきて「安い卵でもおいしい目玉焼きが作れますよ」と声をかけてくれた。ご主人の和やかな人柄は、湯町窯の器からも滲み出ている。作品は作り手を表すものだなあと改めて感じる。
電車で松江に戻って宿で一息つく。天気予報では、いつまた雨が降り出してもおかしくないが、外を見るとまだしばらくもちそうなので、夕日の写真を撮るために再び外に出る。
宍道湖沿いの道をしばらく歩く。豊田さんから夕日の撮影スポットを教えてもらっていたが、まだ時間が早いようだ。夕日が沈むまで、あと30分位はありそうなので、近くにある袖師窯に寄ってみることにした。
袖師窯は、作業場の様子を窓の外から見ることができる。
こちらの窯もまた民藝運動と関わりが深く、三代目が河井寛次郎や濱田庄司から直接指導を受けたという。五代目が窯を継承した今でも、島根の土と原料を使い、「用の美」を追求した普段使いの器を作り続けている。
宍道湖に沈む夕日を想わせる、飴色と呉須色の二彩の器が印象的だった。肝心の夕日はというと、すっかり雲の中に隠れてしまって写真に収めることはできなかった・・・
(次のページ「3日目 出雲民藝紙と出西窯」に続く)
袖師窯
島根県松江市袖師町3-21
JR松江駅から市営バス81南循環内回り「袖師町」下車(約5分)
1 2 3
COMMENTS