墨ができるまで
墨の主な原料は煤(油煙もしくは松煙)・膠・香料です。古梅園での製墨作業は大きく8つの段階に分けられます。追ってみていきましょう。
①採煙
まずは煤を集めます。窓のない採煙蔵には2つの部屋があり、1室に約100の炎が燃えているそうです。菜種など純植物性油を土器に入れ、藺(い)草の芯を用いて作った燈心に火をともし、土器の覆いをかぶせて内側に煤を付着させ取っていきます。
20分に1度職人が土器を回し、煤のつき方にムラが出ないよう調整。1時間ごとに油を追加します。合間に職人は手作業で芯を縒うなどして、次の採煙に向けて素早く準備を進めます。
また煙の質も様ざまで、用途により作り分けます。例えば燈芯が太く大きければ早く採取できますが、その粒子は荒くなります。逆に芯が細ければ、きめ細かい煤が採取できるという訳です。
②膠溶解
次に重要であるのが、接着の役割を果たす膠(にかわ)を溶かしていく作業です。使用する膠は牛、鹿、山羊、驢馬など。その時の状況を見てどの膠を使うか厳選し、板膠を深さ30センチほどの銅壺に入れて湯せんします。湯の温度は外気の状況を鑑みながら、細かく調整されます。
かつては薪で火を焚いていたようですが、現在は温度管理がしやすいボイラーで行われています。
③配合・練り
そうして出来上がった煤と膠の溶液を、職人が混ぜ合わせていきます。はじめは足で、そして手で、丹精込めて光沢が出るまで練り上げていきます。この工程は要のひとつで、完成品の質に大きく影響するのだそうです。この段階で香料も入れていきます。
④型入れ
練りあがった墨玉は重さを測り再度練り上げられ、梨の木で作られた型に入れられます。木型を作る職人もおり、毎年オフシーズンに新しい木型が生み出されています。
⑤灰乾燥
木型から取り出した墨は水分を抜くために、木灰を使ってじんわり乾燥させていきます。急に乾燥させると墨が割れてしまうので、灰の力を使って時間をかけて行うのです。
まずは水分の多い湿った灰に、徐々に水分の少ない灰へと移し替えていきます。2日以上同じ灰に入っていてはいけないとされ、その段階は16にも及びます。
⑥自然乾燥
灰乾燥が終わり、7割ほどの水分が抜けたところで室内乾燥に移ります。水分を3割ほどに減らすことが目標です。藁を編み、天井から吊るして乾かします。短いものは1ヶ月、長いものは10年以上乾燥させることもあります。
⑦磨き
ここまできて、ようやく仕上げ作業に取り掛かります。表面に付着した灰を1丁ずつ水で洗い落とし、炭火で焙り表面を柔らかくします。そして蛤の貝殻で磨き、光沢を出すのです。光沢を出さないタイプの墨を作る場合は、蛤で磨くことはしません。
⑧彩色
最後に、顔料粉を使って文字や図柄に色付けを行いようやく完成です。
(次のページに続く)
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