― 象嵌作品はどのようなプロセスで作られるのでしょうか。制作過程を教えてください。
象嵌作品といっても、やり方は人それぞれ違います。陶芸の一般的な象嵌といえば、さっくりとした質感の赤や黒色の陶土の表面に模様を彫り、その溝に白などの化粧土を埋め込み絵柄とする方法が主流と云えます。
私の作品は、まず陶土と違う性質の「磁器土」という陶石から成るきめ細やかで透光性のある土を使います。轆轤などで形づくり、その表面を針先や小さい道具を使って一定間隔に幾何学の点を掘っていくことで紋様を生み出します。
次は、その小さな溝に色絵の具を埋め込んでいく工程。配色を気にしながら一つひとつの溝に筆で色を付けていく作業です。全部の溝に色が入ったら、表面を綺麗にするために全体を少しだけ削れば模様の出来上がりです。
その後は、素焼き・本焼き・部分的に上絵付けをして再度焼成して作品の完成となります。
― 様々な工程を経て作品が出来上がっているんですね。特に難しい作業や、こだわっている部分を教えてください。
当たり前ですが、全て手作業のため一つの作品を作り上げるのにとても時間が掛かります。但し、土がどんどん乾いていってしまうので、制限がある中でやることがとても難しいところです。
また、一つひとつの模様をつくるのが最初はとても悩んだりしていましたが、最近は慣れてきて楽しみながらやるようにしています。
― 反復する美しい模様が印象的です。制作においてどんなものにインスピレーションを受けていますか?
野花や植物の形や色、またテキスタイルの紋様やタイルなど、素材やジャンルに捉われず様々なものからインスピレーションを受けています。
海外の建造物や民族の織物なども好きなので、その影響も少しあるかもしれません。
思ってもみなかった方面からアイデアが生まれることもあるので、この作品を作るようになってからは色々なものにアンテナを張るようにしています。
― 作業に疲れた時の息抜きや気分転換の方法を教えてください。
制作時間は工房にひたすら籠って目の前の作品に集中するので、ひと息つくときは外の風景を眺めたり空気を入れ換えたりしてリフレッシュしています。
あと最近は、休憩時間にお茶を淹れて味わうのも愉しみのひとつです。中国茶や紅茶など…その時の気分によって変えたり、茶器制作の勉強や試作も兼ねてなので一石二鳥だなと思っています。
― 最後に、陶芸家として今後どのようなことに挑戦したいですか?
今後やってみたいこと、やっていきたいことは沢山あるのですが、今はまだ目の前の作品と誠実に向き合って完成度を高めたい気持ちの方が強いです。
一つひとつの積み重ねが未来を作るのだと思いますし、”より良い作品を作る”というのはずっと変わらないと思います。結果として、常に更新し続けていけたらいいなと。
来年以降は国外の展示も予定しているので、より多くの方に作品を見ていただけるように、身を引き締めて自分自身が納得する作品づくりをしていきたいと思います。
西野 希
東京の美術大学を卒業後、日本最大の陶磁器産地である岐阜県に移住。象嵌技法などを用いて、独自の作陶に取り組む若手陶芸家。各地のアート展やコンペティションに参加している。
1990年 東京都八王子市生まれ
2013年 東京造形大学 卒業
2015年 多治見市陶磁器意匠研究所 修了
現在、瑞浪市にて制作
<公募展>
2015年 そば猪口アート公募展 入賞
2021年 国際陶磁器フェスティバル美濃 入選
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