産業として手漉き和紙を守りたい!
「いざ手漉き和紙職人になろう!」と思っても、その技術習得の道のりは厳しかったと満王さんはふりかえる。
まず、両親をはじめ多くの方々から「やめたほうがいい」と止められたそうだ。それでも、手漉き和紙職人になりたい満王さんは、四国中央市に残っている2軒の職人さんのところへ足を運び、弟子入りを申し出た。
しかし、どちらの職人さんも「やるんだったら、どこかに就職して趣味程度にやる方がいい。この仕事はきつい、やっていくのは大変だから」と、将来を案じて、なかなか二つ返事というわけにはいかなかった。
周囲から止められても、諦めきれずに奮闘していたところ、1人の職人さんから「紙の町資料館」でえひめ伝統工芸士として働く石川さんを紹介され、石川さんの元に弟子入りすることができた。
大学生と職人の弟子という二足の草鞋生活を1年と2ヵ月おくり、大学卒業と共に技術を習得し、工房を構えて独立することができた。
一時、生業にするのではなく、保存会を立ち上げることも考えたそうだ。しかし「自分が残していきたいのは、手漉き和紙の文化だけじゃない。産業としての生きた技術の継承だ」ということに気付き、改めて職人になることを決意した。
手漉き和紙のこれから
手漉き和紙の魅力をこれでもかというほど、実感させてくれた満王さん。しかし、今なお衰退の一歩を辿る産業であることには変わりない。果たして、この産業に未来はあるのか。手漉き和紙のこれからをどう考えているのか聞いてみた。
(満王さん)「まず、四国中央市という町は、ただ紙を作ってきたから1番になったわけではないと、私は思うのです。紙漉きの歴史こそ浅いですが、使う人に寄り添って、使い心地を追求した紙作りを行ってきました。
その背景には、他の産地に比べて原料や作り方に縛りがなく、自由に研究しながら理想の紙を作れる土壌や精神があったからだと思います。
そして、その原点にあるのは、手漉き和紙だと思うのです。手漉きの最大の魅力は、お客さんのニーズにあわせて唯一無二の紙を作れるということ。そういった今昔の人々の声を大切にして試行錯誤し、技術を磨いていけば、未来は決して暗くありません。」
満王さんは、手漉き和紙の技術を継承するだけではなく、研究し、さらに発展させることまで視野に入れていた。
これからも卓越した技術を身に着け、理想を追い求めて手漉き和紙を作り続けていきたいという満王さん。そこから次の世代に繋いで、時代にあわせて技術を改良していってほしいという。満王さんの手漉き和紙に携わる姿は、まさに大河の一滴。その達観した目線で、今だけではなく、さらに遠い先の未来まで見据えていた。
先人が培ってきた想いや技は、1人の青年に受け継がれ、四国中央市内外で小さなうねりを作りだしている。そんな今の満王さんと手漉き和紙を象徴する漢字は「縁」だ。多くの人の縁によって多羅富來和紙は、2年目を迎えていると優しく微笑んでくれた。伝統産業への挑戦は、まだ始まったばかり。若き職人と手漉き和紙の進化は、これからも続いていくだろう。
COMMENTS