ここで提示した物件の条件を紹介しておこう。大事なのはとにかく家賃。私が家賃に支払える金額は月額1万円以内。
だが、いきなりそんな少額を伝えれば門前払いにあう可能性もある。それどころか経済力の低さに社会的信用を失うことさえ考えられる。
よって私は、少し背伸びして家賃の条件を「月額2万円ほどで」と伝えていた。しかし見栄を張っても予算が2万円とは、社会人としての器の小ささがより一層きわだつ。
間取りは仕事スペースと休憩スペースの二部屋さえあればいい。電気さえ通っていれば仕事は出来るので水道とガスも必須ではない。
その条件に合致したのが、「母屋が無くなっていて、離れの小屋だけが残っている」という当物件だったのだ。
そんなわけで2020年の9月、赤トンボが飛び交う中で見学が行われた。物件のある集落は、盆地がすぼまった形で細長い田畑が広がる地域である。その中ほど、農業用水路を渡った先にその小屋はあった。
生い茂る木々や雑草に囲まれる中、外壁をサビたトタン波板に覆われたバラック小屋が建っていた。住居用の小屋というよりも、周囲の景観も相まって農機具倉庫と言った方が的確かもしれない。
小屋に寄り添うように設置されている取って付けたような小さいトイレと風呂はお世辞抜きに要修繕だった。
いよいよ肝心の屋内に踏み込む。アルミ色の扉のノブを回すと、濃厚な昭和臭が漂う部屋が現れた。
壁と床はペコペコの化粧合板で彩られている。その部屋から木戸を開けると茶色いシミだらけの砂壁と畳の和室が現れる。畳の上はブニュブニュとしたソフトな踏み心地である。床が腐っているのだろうか。
和室のガラス戸の向こうに小さな縁側があり、雨戸を開けると外に通じる。廃墟感が強く寝泊まりしたいと思える状態ではないが、残置物を撤去して部屋の中を全体的にリノベーションすれば問題なくなるのだろうか。
そしてなぜかこの小屋、天井が異様に低い。私の身長は成人男性の平均値だが、電灯の笠の下端が私の鼻の位置にあるのだ。日本人の平均身長が150㎝台だったという200年前の建造物だとでもいうのか。
しかしここに決めた。「町の方の許可がもらえるのであればここに決めようと思います。」と伝える。
というのも、この物件は不動産屋の管理ではなく、町の管理物件とのことだった。なので家賃を含め入居者を受け入れるかどうかも町の方で決めるという事だった。
後日、その年の区長さんにご挨拶した時に家賃の話になり、「まぁこんなボロやから1万円くらいでええんちゃう?」と聞いた時には心の中でバンザイをした。
「次の役員会で話しするけど、最終的に8千円くらいになるんちゃうかな」と聞いた時には心の中で小躍りした。
後日、契約書を事前にメールで送ってもらったところ、家賃が「5千円」と記載されていて、私は南丹市の方向にひざまづいた。そしてついに、2021年の1月1日から畑と庭付きの小屋を借りる事となったのである。
つづく
次回、「一弟子去って、また一弟子」
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イラスト:SORRY.
和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。
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写真:其田有輝也
erakko おとも椀
erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。
旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれたのがerakkoのおとも椀です。天然素材である木と漆を味わうだけでなく、アウトドアで使うための工夫を施した本格派の作りになっています。
カエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットなど、おとも椀の木地には様々な樹種を使用しており、それぞれがもつ個性を引き出すことにもこだわっています。木肌の色や木目を活かすため、拭き漆に使用する漆は樹種ごとに使い分けています。
おとも椀には、高台(こうだい)といわれる底の立ち上がりがありません。野外での使用を考え、重心を低くして転びにくくするためです。これ以上ないシンプルさと、ふんわりしたやさしい丸みで、いつまでも両手で包み込んでいたくなるお椀です。
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生産地:京都府
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