木工旋盤

木材を調達する

この調子で経験を増やし腕を上げるためには、次なる課題をクリアしなければならない。それは、「木材をどこで調達するか問題」である。先述の通り、漆塗りと木工は分業されているため、木地を扱わない塗師(ぬし)は材木屋とあまり付き合いがないのだ。

ホームセンターでも手に入る木材は、木工作品としてあまり利用されるものではないことが判明した。私は木材の調達先はおろか、その知識すら無い状態で木工機械を購入していたのだった。

まず、木の基礎的な分類として「針葉樹」と「広葉樹」が挙げられる。字の通り、針葉樹の葉っぱは直線的で針状に細い。幹はまっすぐに生える性質を持つ。広葉樹の葉は平らに広がり、こちらの幹は枝分かれも多く曲がりくねったりしながら生える。

この両者を材料として比べると、重さ(堅さ)とバリエーションの豊富さという点で大きく異なる。スギやヒノキなどの針葉樹は成長が早く、比較的軽くてやわらかい傾向にある。色合いも中心に近いところが赤みがかっていて、周辺部が白系というものが多い。

一方の広葉樹は成長に時間がかかり、緻密で堅く重い材となる場合がほとんどだ。色合いの個性も多く、白、黄、赤、茶、黒や、中には着色したかのように明るい紫色などもある。その多様性はまさに種類の豊富さからきていて、針葉樹が540種とされているのに対し、広葉樹は約20万種も存在しているというのだ。

木材はそれら性質の違いを利用して使い分けられる。針葉樹はまっすぐに生えるため長い材を確保しやすく、柱や床板などの建材として使用されることが多い。広葉樹は重厚感や多様性から、樹種そのものの個性を味わう家具や木工作品の用途として好まれる。

そういうわけで、木の個性を存分に味わいたい私が手に入れるべき木材も広葉樹なのであった。本格的な木材を扱う銘木(めいぼく)店のホームページを見てみると、ある程度の大きさの材は安くても数万円はする。機械を購入した時点で貯金はほとんど底をついていたので、どうあがいても私に買える代物ではなかった。

そこで私は、限られた資金で広葉樹を確保する独自の手法を考案した。方法はいたってシンプル。バイクで田園地帯や山間部へと向かい、あちこち走りながら小規模かつ商売っ気の少なそうな材木屋さんを探すのだ。決して平日の昼間からツーリングを楽しもうなどと思ったわけではない。当時は移動手段となる足がバイクしかなかったのだ。

ネットにも情報が無いような材木屋さんを探し当てて安くで材料を確保するなど、宝探しのようでワクワクするではないか。「デキるオトコは木材一つにしてもストーリー性を求めるのだ!」と、都合よく飛び出す。

師匠である父には、「材木探してくる。」とだけ言い置いて堂々とバイクで出かけていた。しかし成果が上がらず、「今日ツーリングしかしてへんやないか!」と自分でツッコむ日もしばしば。

それでも、あちこち走り回っていると目ぼしい材木屋さんが見つかるものである。外から様子を伺い、作業をしている人に思い切って声をかけて事情を説明する。効果が有ったのか無かったのかは不明だが、若干の困り顔も付け足しておいた。

材木屋

幸いなことに、この方法で何件かの材木屋さんから挽き物の練習をするのに充分な量のケヤキを確保することができた。ケヤキは漆器の木地にもよく使われる堅く丈夫な広葉樹で、大胆な木目があらわれるのが特徴だ。バイクでは積載量に限界があるので、わざわざ細かく切断してもらってから載せられる分だけを持ち帰っていた。

こうして遠回りしながらも、ついに恋焦がれた広葉樹で木工をすることが叶った。ここからようやく、私の目的であるコッヘル(アウトドア用のお鍋)に収納できるうつわの木地作りが始まったのである。順調そうに見えるが、木材を探しはじめた頃から3か月近くが経過して春がやってきていた。

それからは試行錯誤で木工旋盤の使い方を学びながら、幾日も試作に明け暮れる日々。隣の部屋で大事な塗りの作業をしている父に「影響が出ている。」と言わしめる日々。機械の扱い方がわからず、繰り返し木材を炸裂させた恐怖心から不整脈を発生させる日々などが続いた。

そうしたいくつもの日々と数えきれない下方修正の先に今の私がいる。最近でこそ、自販機でジュースを買うくらいの小銭がポケットに入っていることもあるが、まだまだ状況は予断を許さない。

そしてなんと、ネットではTABITOTE STOREでしか購入できない我がerakkoの新作が近々発売されるというではないか!みなさま、ご期待くださいませ。

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イラスト:SORRY.

和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。

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写真:其田有輝也

カエデヤマザクラケヤキフォールナット

erakko おとも椀

erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。

旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれたのがerakkoのおとも椀です。天然素材である木と漆を味わうだけでなく、アウトドアで使うための工夫を施した本格派の作りになっています。

カエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットなど、おとも椀の木地には様々な樹種を使用しており、それぞれがもつ個性を引き出すことにもこだわっています。木肌の色や木目を活かすため、拭き漆に使用する漆は樹種ごとに使い分けています。

おとも椀には、高台(こうだい)といわれる底の立ち上がりがありません。野外での使用を考え、重心を低くして転びにくくするためです。これ以上ないシンプルさと、ふんわりしたやさしい丸みで、いつまでも両手で包み込んでいたくなるお椀です。

erakko おとも椀を購入する

旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれた木と漆のお椀です。樹種はカエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットの4種類からお選びいただけます。

生産地:京都府
サイズ:Φ110×H55
仕上:拭き漆
付属品:風呂敷(むす美 / 日本製)

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