クラウドファンディングでモノづくりの洗礼を浴びて以降の私は、職人としての高みを目指して腕を磨くことを放棄していたと言ってもいい。それよりも手作り市などでの小遣い稼ぎを優先し、ほどほどの手間で作れて値段もお手頃な木工雑貨を作ることにいそしんでいた。
え?クラウドファンディングはどうなったのか? 手短にご説明すると、モノづくりのキビシさを味わいつつもなんとか乗り越えることができた。そのキビシさは、数々の詞をメロディーにのせて世に送り出してきた小田和正さんであっても言葉に出来ないであろうと思われ、私などが言葉に出来るはずもなく語れば単なる苦労自慢のようになってしまう。
今にして思えば、試作品しか作った事がない独学の素人職人がいきなり50個近い注文を受けて苦労しないはずが無いのだが。かといってただの苦労話を垂れ流すことを私はよしとせず、また皆様もお求めでないだろうから、この話は割愛する事にした。
とにかくその時のキビシさにより、私のモノづくりへの意欲は急速にしぼんでいった。それからしばらく、私は職人として長すぎる遠回り、時間の無駄遣い、あるいは現実逃避とも言える日々を過ごした。
そして今、意欲がしぼんだ職人の怠惰な日々を赤裸々に告白する”新たなる絶望日記”がはじまる!
テキスト:柴田明(erakko)
京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きています。アウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動中。
erakko公式サイト
繰り返される土地争い
先述のとおり、私は作るのも手軽、値段も手軽というものを生産しては手作り市で日銭を稼ぐ事に注力していた時期があった。31歳の誕生日を迎えた朝も手作り市出店の予定が入っていたのだが、目が覚めてスマホの画面を見ると時刻は5時40分と表示されている。
「あ、寝坊や、、、」
この日、京都の有名な某手作り市に出店する予定だったのだが、その市はとにかく朝が早い。そして、ごく控えめに言って、なんとも京都らしい手作り市でもある。
会場での出店場所は運営側の指定ではない。午前6時に鳴らされるホイッスルと同時に、「早いもの勝ち」という原始的な土地争いが繰り広げられるのだ。
朝っぱらからいい大人たちが一斉に駆け出しては、われ先にと出店場所を取り合う姿を見せつけられるのは気持ちのいいものではない。そんな光景を目の当たりにしては、やはり土地や資源をめぐる人間の争いとは永久に無くなりはしないのかという虚しさを早朝から抱かざるを得ない。
そのたくましさについていけない私は、平和を愛する現代人として後から空き場所を見つけて店を構えるのである。
(次のページに続く)
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