第八話「パリ娘と金継ぎ」
2019年、秋。したたかな後出しジャンケンによって私にビザ取得を代理申請させたパリ娘が来日した。
彼女は母国語であるフランス語に加えて英語も話せるという。日本語は少し聞き取れるが、会話は出来ないらしい。よって、インターンシップでの取り組みを決めるにあたり、父(師匠)の知人で、英語圏の人々に日本語教師をしている人に通訳として同席してもらった。
せまい工房内に集まる父、日本語教師、パリ娘、私の四人。遠い異国で言葉の通じる人物と出会ったことが嬉しいのだろう。パリ娘は日本語教師とのおしゃべりに興じている。
しかし肝心の本題に進展が無い。パリ娘に「取り組みたい事や興味のある漆塗りの技法はありますか?」と質問をしても、「特にありません。あなた方に従います。」という返事ばかりなのだ。
「だったらどうして日本にまで来たのか。」とも思ったが、それは胸の内にしまっておいた。ニッポンに行きたい人を応援して招待する某番組に出てくるような前のめりで情熱的な人物を想像していた私は困った。番組を毎週録画して楽しみに見ていた父も同じく肩透かしをくらったことだろう。
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