柴田明

2019年、秋。したたかな後出しジャンケンによって私にビザ取得を代理申請させたパリ娘が来日した。

彼女は母国語であるフランス語に加えて英語も話せるという。日本語は少し聞き取れるが、会話は出来ないらしい。よって、インターンシップでの取り組みを決めるにあたり、父(師匠)の知人で、英語圏の人々に日本語教師をしている人に通訳として同席してもらった。

せまい工房内に集まる父、日本語教師、パリ娘、私の四人。遠い異国で言葉の通じる人物と出会ったことが嬉しいのだろう。パリ娘は日本語教師とのおしゃべりに興じている。

しかし肝心の本題に進展が無い。パリ娘に「取り組みたい事や興味のある漆塗りの技法はありますか?」と質問をしても、「特にありません。あなた方に従います。」という返事ばかりなのだ。

「だったらどうして日本にまで来たのか。」とも思ったが、それは胸の内にしまっておいた。ニッポンに行きたい人を応援して招待する某番組に出てくるような前のめりで情熱的な人物を想像していた私は困った。番組を毎週録画して楽しみに見ていた父も同じく肩透かしをくらったことだろう。

テキスト:柴田明(erakko)

京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きています。アウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動中。

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金継ぎ

困った末に父が「金継(きんつ)ぎはどうや?」と提案した。ご存知の方も多いだろう。金継ぎとは、割れた陶器や磁器を繋ぎ合わせて修復する漆塗りの技法である。

陶器や磁器の修復なので、「漆器づくり」からは少し離れているかもしれない。しかしこの金継ぎは、接着に始まり仕上げの装飾にいたるまで、ほぼ全ての工程で漆と、漆塗りの技法を使う。よって、下地から仕上げまでの各工程をまんべんなく学ぶことができるのだ。

それに、西洋には普段使いの器が割れても修復する概念そのものが無いという。単に修復するだけでなく、美しく生まれ変わらせるニッポンの技法も精神もワンダフル!とウケがいいとも聞く。このナイスな提案に、久しく忘れていた父を敬う気持ちが少し芽生えた。

パリ娘もいたく興味をそそられた様子だったので、満場一致で金継ぎの修得が決まった。修行日は月曜から金曜まで毎日13時半からとし、いよいよ本格的な異文化交流が始まる。

次のページに続く)

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