木工旋盤

そのような漆かぶれの苦しみからパリ娘を守るため、「肌に漆がつかないよう、手袋と服で万全を期すように」と口をすっぱくしてきた。それでも肌に漆が付いた際には、「すぐに薬品で拭き取れ!念入りに拭き取れ!」と私の方が慌てていた。

当の本人はといえば、「これまでかぶれてないから大丈夫だ。私はかぶれにくいようだ。」と余裕の態度である。

しかし、その日はやってきた。初めてお客さんから依頼された仕事を進めていた日々の事である。おやつ休憩の時にパリ娘が、「実は、、、」と言って袖をまくって見せてきた手首から前腕の辺りがうっすらと赤く腫れていた。

そこまで強い症状ではなく、本人も「この程度なら大丈夫だ」と言うので、帰りに一緒にドラッグストアに寄ってお肌にも優しめの塗り薬を買ってやった。

それから2~3日はどうにか痒みに耐えながら過ごしていたようだが、間もなく我慢の限界に達したらしい。

いつもの午後に仕事場に着くなり、「もう痒くて我慢できない!ここ数日は夜も眠れていない!」と必死の形相で訴えてきた。腕の患部を見ると赤く腫れた範囲が広がっており、体のいろんな場所にも飛び火しているとの事だった。そこまでかぶれたら病院に行くしかない旨を伝え、その日は滞在先に帰した。

金継ぎ

翌朝に駅前で待ち合わせて皮膚科のあるクリニックに向かう。院内の待合室は座る場所もないほど混雑していた。診察までソファー席に向い合って座り、お互い持参した本を取り出す。しばらくはどんな本を読んでいるかなどの会話を交わしてから、それぞれ無言で読書に耽っていた。

すると突然、パリ娘がグスングスンといって目元に指を添えて涙を浮かべ始めた。彼女がその時に読んでいたという黒人奴隷に関する本に悲しい場面でも出てきたのかと思ったが、どうやら違う様子だった。

「どうしたんだ?」と尋ねると、「気にしないで、、、ちょっと疲れただけ、、、」と言ってさめざめと泣いていた。遠い異国で一人、夜も眠れない痒みの悪夢にうなされていたのでは無理もない。

「すまない。もっと早くにクリニックに連れていくべきだった。」と私は謝罪した。それでもパリ娘は「いいの、、、ちょっと疲れただけだから、、、」と繰り返す。この場合、ソファーの隣に移動してそっと腕を回して肩を抱いてやるのが欧米スタイルのセオリーなのかとも考えた。

しかしアメリカにいるというパリ娘のスキンヘッドのボーイフレンドに殴りこまれたくないし、なにより日本人好みの私は再び自分の読んでいた文庫本に目を戻した。

その後、パリ娘は英語が話せる女医さんの診察によって的確に薬を処方してもらい、インターンシップは2週間中断して漆から隔離することになった。

つづく

イラスト:SORRY.

和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。

INSTAGRAM

写真:其田有輝也

北海道でシチューを食べたいうつわ

北海道でシチューを食べたいうつわ

柴田明さんが手がける漆器ブランド「erakko」から待望の新商品が発売されます。その名も「北海道でシチューを食べたいうつわ」。

今回はそのコンセプトについてご紹介いただきました。次回の記事では製作過程について、じっくりインタビューをお届けします。

「北海道でシチューを食べたいうつわ」は12月上旬の発売予定ですが、現在先行予約にてご注文を受け付けております。商品ページからご注文をお願いします。

― 商品のコンセプト

「雪に覆われた北海道の丸太小屋。
そこで食べるシチューをイメージして作ったうつわ。」

erakkoの新商品として作ったうつわは、ひたすらに北海道をイメージして作りました。なぜなんだと聞かれたら、北海道(の田舎)が好きだからです。

雄大な自然と共に暮らす人々の営み。
荒々しさと素朴さの中にある美しさ。
異国の雰囲気も漂わせる多様性。

そんな要素を一つのうつわに込められたと思っています。日常から離れ、社会に左右されない自分を取り戻す時間に寄り添える存在になれると幸いです。

北海道でシチューを食べたいうつわ

― 商品の特徴

本製品を作る上で、木地づくりから漆塗りにいたるまで、「荒っぽさの中にある温かみ、美しさ」を大切にしました。「手作りならではの素朴味あるやさしい粗さ」を感じてください。

木地の外側はざっくりとした削り味ですが、ケヤキの木目も楽しめるよう内側は丁寧に仕上げています。また、持ち手の上の部分を少しくぼませて指が置きやすく握り感をよくしています。

塗装は薄い塗膜で木目がよく見える「拭き漆仕上げ」です。初回の塗り直しは無料で承りますので、安心して日々の食事にお使いください。

うつわのサイズはシチューを食べるのに丁度よい大きさにしていますが、大きすぎず小さすぎず、絶妙な幅と深さを確保しているので、いろいろな料理にお使いいただけます。

北海道でシチューを食べたいうつわ

旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんなコンセプトを持つerakkoからスープカップが登場しました。工芸品ではない漆器の魅力に気づかせてくれる素朴で温かみのあるうつわです。

価格:15,400円(税込)
生産地:京都府
素材:ケヤキ・漆
サイズ:W190×D140×H60

STOREで購入

COMMENTS

LATEST STORIES

新商品発売記念 柴田明インタビュー
erakkoの柴田さんに新商品のコンセプトや製作過程について語っていただきました
若手職人の絶望日記 第九話「漆芸の洗礼」
アウトドア漆器ブランド「erakko」を手がける若手職人の絶望と笑いの奮闘記
繋いで伝える郷土料理ノート「いもみそ」
里芋の産地・新潟県五泉市に伝わる郷土料理
時代をこえて信州に息づく松代焼
江戸時代に始まり一度は途絶えた松代焼について唐木田伊三男さんにお話しを聞く
繋いで伝える郷土料理ノート「ずんだ餅」
枝豆の美しい緑色と風味を楽しむ宮城県の郷土料理
若手職人の絶望日記 第八話「パリ娘と金継ぎ」
アウトドア漆器ブランド「erakko」を手がける若手職人の絶望と笑いの奮闘記
繋いで伝える郷土料理ノート「冷や汁」
宮崎県の平野部で暑い夏に食されてきた郷土料理
若手職人の絶望日記 第七話「職人とパリ娘」
アウトドア漆器ブランド「erakko」を手がける若手職人の絶望と笑いの奮闘記
うちわ / お茶 / お菓子 / お酒 / ご当地グルメ / イタヤ細工 / イベント / ガラス / キャンプ / グリーンウッドワーク / コーヒー / テキスタイル / ファッション / 備前焼 / / 和紙 / 喫茶店 / / / 宿泊施設 / / 布志名焼 / 建築 / 扇子 / / 木工 / 木櫛 / 松代焼 / 果物 / 染物 / / / / 漆器 / 濱田庄司 / 瀬戸焼 / 焼き物 / 牛肉 / 畜産農家 / 益子焼 / / / / 竹細工 / / / 組紐 / 美術 / 蜻蛉玉 / 豚肉 / 農家 / 郷土料理 / 野菜 / 金継ぎ / 革製品 / 食文化 / 魚介類
北海道 / 青森県 / 秋田県 / 山形県 / 宮城県 / 新潟県 / 群馬県 / 長野県 / 栃木県 / 茨城県 / 千葉県 / 東京都 / 山梨県 / 静岡県 / 岐阜県 / 愛知県 / 京都府 / 奈良県 / 大阪府 / 兵庫県 / 島根県 / 岡山県 / 広島県 / 愛媛県 / 香川県 / 大分県 / 宮崎県 / 鹿児島県 / 海外