長野県・篠ノ井。国道からしばらく坂道を上がっていくと、田園風景の中にたたずむ窯元がある。1973年創業の「唐木田窯」だ。江戸時代後期に松代藩で始まり、一度は途絶えた「松代焼」。この焼き物を復活させた唐木田又三さんの意志を継ぐ、息子の唐木田伊三男さんを訪ねた。
松代焼のはじまり
江戸時代後期、北信濃を治めていた松代藩が、産業振興の一環として奨励した陶器業。それまでは、陶器といえば藩の外から持ち込まれるものに限られていたが、運送手段が整っていなかった当時、遠方から重い陶器を運ぶことは容易ではなかったのだ。そこで、地元の原料で陶器を作れないものかと思案する。求められたのは、きらびやかな観賞用の陶器ではなく、庶民の生活に欠かせない水がめやこね鉢などの実用品だ。
「焼き物を始めるにあたり、当時の人はとても苦労したようです。土器であればたいていどこの土でも作れますが、陶器となるとそうはいきません。釉薬をかけて堅く焼き上げるには1200度以上の高温に耐えられる土でなければならないし、成形するには粘り気が必要。技術があっても、作陶に適した土でなければうまく焼けません。当時の人は松代藩中の土を探し回り、ようやく作陶に適した土を発見。あとは材料の組み合わせで試行錯誤して松代焼を完成させたようです」
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