時代と共に人が求めるものも変わる
昔と違い、現在は軽くて小さい焼き物が求められる。そのためには薄手に作らなければならない。しかし、そう単純ではない。薄手に作ると焼いて冷めた後の収縮時に、土がひび割れてしまうからだ。
元々は頑丈で大ぶりな実用品を作るために用いられた土。薄手の造形には向いていない。地元の土だけにこだわりたいと思う一方で、人が求めるものを作らなければならないというジレンマ。現在では、昔から使う地元の土に粘り気のある土を混ぜることで、より繊細な造形を生み出している。
伊三男さんの作品は、やわらかな色合いで、洗練された意匠の中にも温かみが感じられる。窯の雰囲気調節によって表現される赤色は、作品の表情を豊かにしている。手に取ると、作り手の優しい人柄が伝わってくるようだ。
これからの時代の松代焼
又三さんが陶苑を営んでいた頃は、焼き物を贈答品として買い求める客が主だったが、人々の嗜好の変化からいまはその需要も減っている。
「人は水が無ければ生きられませんが、陶器が無くても生きられる。この時代に、誰もが陶器を使わなければならない理由はないのです。今日では、たくさん作って安く売るという発想もあります」。そして、こう続ける。
「これからは趣味性の高い領域への転換も必要だと思います。高度な技術で時間をかけて良いものを作る。そして、その労力に見合った価格で販売する。松代焼をどうやって次の世代につなげていくのか、いまはまだ分かりません。ただ、今後も続けて、未来へつなぐとしたら、伝統工芸としての松代焼をそのまま踏襲するのではなく、自由な発想で創作していったら、きっと面白いものができると思います」
江戸時代に庶民の実用品として始まった松代焼。200年以上の歴史の中で、人々の生活様式が変わり、置かれている状況はいまと昔とでは大きく違う。時代の波にのまれながらも、形を変えて地域に息づく松代焼。その伝統や作り手の精神は、これからも作品の中に姿をとどめていくのだろう。
協力:唐木田窯
〒388-8017
長野県長野市篠ノ井山布施6350
TEL026-229-2433
テキスト・写真:鈴木俊輔
長野県のローカルライター・編集者。東京の出版社勤務を経て、フリーライターに。長野県を拠点に、人の思いを伝えるインタビュー記事を執筆。
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