片山吉一さんの畑

霜に3回あてると甘くなる

2人目のつくり手は、片山吉一さん。片山さんの畑は、おしぼりうどんとそばを提供する「かいぜ」という店の前に広がっている。「かいぜ」を営むのは奥さんで、店では片山さんの育てるねずみ大根と中之条大根をつけ汁や漬物で味わうことができる。10月中旬、畑を取材しに行った。旧北国街道から山の方に緩やかな坂を上っていく。「かいぜ」は、赤い実をたくさんつけたりんごの木や背の高いくるみの木に囲まれている。ふと視線を感じて振り向くと、少し離れたところにヤギがいた。ゆっくり近寄ると、向こうもやって来た。気付けば小屋の中のウサギたちも全員こちらを見ている。そして、畑ではねずみ大根の葉が風に揺れているのが見えた。

片山さんはねずみ大根と、父親の代から種を受け継ぐ中之条大根をつくっている。播種の時期は違うが、中沢さんと同じように今年は発芽しないものもあったという。また例年と比べアカザという草が多く、いつもはしない草とりをする必要があった。片山さんはねずみ大根の種を毎年9月5日から10日の間にまき、収穫は11月末に行う。

片山吉一さんの畑ねずみ大根のたくあん

播種から収穫までの作業は、雪の降らないうち遅ければ遅いほど良いと考えている。「ねずみ大根は、霜に3回くらいあてると甘くなるんだよ」。純粋な水より砂糖水が凍りにくいのと同じ原理で、気温が低くなると野菜は表面に糖分を出すようになり、その状態は人間が食べても甘みを感じる。11月に入れば、坂城では雪が降ることもある。「雪で収穫がダメになったこともあるけど、それも自然だから」。にこにこしながら片山さんが言った。自然が自然のままにあることを大切にし、それを楽しんでいることが伝わってくる。だから、りんごもくるみもヤギもウサギもアカザも青虫もキノコも野菜も、片山さんの畑では生き生きしているのかもしれない。

畑をまわって、手作りの木のベンチに座ってしばらく話していると、日が暮れてきた。オレンジが山の向こうに沈んでいく。11月13日、取材をした振興協議会の畑ではねずみ大根の収穫が行われる。次は収穫で!すっかり仲良くなった片山さんと手を振って別れた。

取材協力:ねずみ大根振興協議会

写真提供:坂城町商工農林課

テキスト:平山朋子

取材記者。北海道から沖縄まで、被災地等を中心に取材を行う。方向音痴で道に迷うことが多く、いつも現地の人に助けられている。平日は児童館で子どもたちと遊ぶ。造形活動が好き。

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