ねずみ大根は捨てるところがない
ねずみ大根は捨てるところがない、と教えてくれたのはねずみ大根まつりの参加者だったが、加工と保存の技を見せてくれているのが「味ロッジ」だ。味ロッジは2004年に農家の女性たちによってつくられた、地域農産物を活用した加工品の製造と販売を行っているグループで、2013年に法人化した。
流通ルートにのらない傷のある野菜や果物などを農家から買い取り、商品化して販売している。「農産物を捨てるのはもったいない」という思いから始められたこの会社では、社員一人一人が知恵を持ち寄って日々商品開発が行われている。正規に出荷できなかったねずみ大根も、お母さんたちの手でおやきの具やドレッシングに生まれ変わる。
味ロッジの加工品直売所と食堂のある「びんぐし亭」から、坂道をのぼっていくと味ロッジの加工所がある。そこで代表を務める矢幡和香子さんに話を聞いた。味ロッジのこだわりは、できる限り地元の農産物を使うこと、保存料を一切使わないことだという。商品ラベルの原材料に、そのこだわりを見てとれる。
ビンの中の物語
農家と支えあってきた味ロッジも、コロナ禍で厳しい状況に追い込まれた。坂城に来る人が減ったことも大きな原因だったが、それだけではなかった。ふと矢幡さんが事務室の冷蔵庫を開け、「つまみ味噌」というビンに入った商品をスプーンにとって渡してくれた。甘めの味噌に坂城町産のバナナ胡椒という唐辛子が刻んで入っているもので、噛むほどに味が出る。
「おいしい」と言うと、様子を見ていた矢幡さんが「そうでしょう?」と言って笑った。「やっぱり食べてみないとこの商品の良さは伝わらないよね」。感染拡大の中では、たとえ販売会に出したとしても試食を出すことは許されなかった。試行錯誤の末にできた自慢の味を伝えられないのは何よりつらい。
「一番うれしいことは何ですか」と質問をすると、「どんな状況であっても社員が笑顔で加工所に入ってくれることかな」と矢幡さんは即答した。「仕事だからきついこともあると思うけど、楽しみながら作業をしてくれることで1ランク上のものができると思っているんです」。
加工所を出ると、ドウダンツツジがインクで染めたように真っ赤だった。霧のような雨は歩いている途中で止んだ。空気が澄み渡って、少しずつ景色が鮮明になっていく。この町でのたくさんの出会いを思い返しながら、坂道を下った。
「坂城のねずみ大根」初めて知りました。いつか坂城に行って、食べてみたいと思いました。レポートも素晴らしい。貴重な情報、有り難うございます。