原料から作る理由
資修さんが家業を継いでからは栽培面積を広げ、別の場所にも畑を持つようになった。炎天下の作業は過酷そのもの。常に熱中症の危険と隣り合わせだ。
収穫したそばから穂を脱穀機にかけ、そのまま2~4日天日干しにする。焼けるようなアスファルトに座り込んで、穂の曲がりくせを矯正しながら並べていく。「夏は地獄のようです。ここまでストイックにやっているところは他にないですね」。さらに室内の暗所で3~4カ月乾燥させる。
ここまでこだわるには理由がある。原料の質がほうきの出来を左右するからだ。種から手を掛けて育てたホウキモロコシは、外材に比べて穂が柔らかく耐久性がある。大切に使えば何十年も持つという。
変えること、変えないこと
松本箒の特徴といえるのが、“4つ玉編み、飾り糸が2本”。装飾は最小限にとどめる。シンプルだからこそごまかしがきかない。そこが難しさだと資修さんは話す。穂をたくさん使い厚みがあるのも特徴だ。城下町である松本には職人が多く、しっかり掃けるほうきがかつては重宝されていたそうだ。「男ほうき」とも形容されるが、その見た目に反して、掃き心地はやわらかく驚くほど軽やかだ。
元々はどちらかというと無骨なたたずまいの松本箒。資修さんはいまの時代に合わせて繊細さを取り入れている。穂を編みこむ糸には、黒に加えて現代的な赤い麻糸やデニム糸を使用。柄の部分は握りやすさを考え、一般的な竹に代えて近隣の木工屋が加工するコウゾ、桜、タモ材なども使う。それまで3つしかなかった種類もサイズや形状を増やしていき、いまでは20種類にもなった。
変えることと変えないこと。話を聞いていると、そのバランスをうまく取りながら洗練させていったことが分かる。松本箒の伝統を守りながらも、使う人の声を取り入れ、時代に合わせて変えていく。デザイン性だけでなく機能性も考える。各地の催事に出展して、自身の耳で生活者の声を聞いてきた結果だという。
「うちのほうきを使い始めた方は、掃除のストレスが無くなったと言います」。工房のほうきを求めるのは都会の生活者が多い。アパートやマンションで暮らす人にとって、掃除機の大きさや騒音はストレスの種。手軽に運べて音を出さずにきれいに掃ける、部屋に掛けてもインテリアになじむデザインが人々を魅了している。
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