吉田屋

今回は葛菓子製造の吉田屋さんを訪れるため、葛の故郷・吉野へ向かいます。

ここ下市という場所は、平安時代より吉野地方の中心的な存在として政治・経済・文化の上で重要な役割を果たしてきた地です。天皇や貴族の金峯山(修験道の総本山)信仰が盛んになると共に、仏教文化の影響を受け、平安時代には貴族や有力社寺が荘園経営の為、大挙して進出してきたのです。

この地で日本最初の商業手形「下市札」が発行されたことからも、いかに商業的にも発展していた場所であるか分かります。

下市という地名の由来は付近に流れている秋野川が当時、吉野地方の入り口であったため、中世以降、交易が盛んになり毎月市が開かれていたことによるそうです。

また下市は大峰山へ登る修験者のための宿場町でもありました。交通がまだ発達しておらず、下市口駅で降り立った修験者達は宿場に架かる千石橋を渡り、約10里(40km)の道を大峰山まで歩いたといわれています。

今回訪れた吉田屋さんは、山上参りの山伏達のために、土産物として葛や乾物、菓子等を製造し、下市の旅籠(各旅館)に売りに行ったのがその起源だそうです。

金型

吉田屋さんは明治十五年以降百有余年の間、吉野の特産物である「葛」を使用した葛餅、葛菓子、葛飴などさまざまな葛製品の製造に携わってきました。

近年は、別の場所に工場を作り、製造の自動化が進み、菓子作りの風景も一変しましたが、その当時、吉田屋には20人程の職人がいて、様々な菓子を手仕事で作っていました。

こちらの吉田屋本社は、先代までの製造場所を博物館として保存してある場所です。かつて製造に使っていた道具や資料が展示してあります。

当時は、いろんな物を考案し試行錯誤していたと思われる様子が、その頃のしおりや道具からうかがえます。

株式会社吉田屋

創業明治十五年。奈良県吉野で和菓子をはじめ奈良県産の葛を使用した様々な製品をまごころ込めて作り続けています。吉田屋本社は、かつて製造に使われていた道具や資料を展示する博物館になっています。

奈良県吉野郡下市町阿知賀1128-1

葛菓子

80年間変わらずに作り続けている葛餅(羽二重餅)や、寒い季節にぴったりの葛湯、木型で起こした美しい葛菓子(干菓子)、葛わらび餅や葛ごまどうふなど、近年では欧米化していく食生活の中、日本に昔からある食材のひとつ「葛」のおいしさを先代から受け継がれた知恵と技術を生かしながら、手作りするものと機械で作るものを合わせて、次世代に伝えるべく新しい葛菓子作りにもチャレンジしています。

木型

原材料となる葛粉は、大和連山で採集した葛藤の根をつぶし、清らかな水で寒ざらししたものが上質の吉野葛・本葛となります。美しい葛になるまでざっと2カ月ほどかかります。まさに職人が手間暇かけた結晶です。

葛は料理の主役ではありませんが、美味しさを引き立ててくれる大切な存在です。吉田屋では素材の持ち味を引き出す菓子作りを大切にしています。吉田屋の職人さんは、その味を引き継ぐため、毎日細心の注意を払いながらお菓子作りに励んでいます。

干菓子の出来栄えの良し悪しは、力かげん次第。その感覚は自分でつかむしかないそうです。特にすべてが手作業の干菓子づくりはベテランの職人さんでも緊張するといいます。

小さくて食べやすくい葛の干菓子は、落雁(らくがん)とはまったく違う不思議な味わいです。上品な甘みで口に入れるとスーと溶けます。吉野葛のなめらかな舌ざわりと豊かな風味は、昔ながらの変わらぬ味です。

吉田屋の葛製品を購入

創業明治十五年。まごころ込めた味を作り続けている奈良県吉野の吉田屋さん。職人の手仕事で作られた葛菓子や奈良県産の本葛を100%使用した贅沢な葛湯を販売しています。

STOREで購入

葛湯

炭水化物と糖分を合わせて作られる葛湯には、整腸作用があり、腸内環境が改善されて腸の働きが整うといわれています。赤ちゃんに多い便秘にも効果的です。また体を温める作用もあるので、寒い季節の体調管理に葛湯はもってこいです。

吉田屋さんを後にして奈良吉野から京都を目指します。車窓からは古墳が見え、田園風景が広がります。橿原神宮前駅にて電車を乗り換えるわけですが、一旦途中下車して橿原神宮を参拝してきました。

この神宮は初代天皇とされている神武天皇と皇后を祀るため、神武天皇の宮(畝傍橿原宮)があったとされるこの地に、橿原神宮創建の民間有志の請願に感銘を受けた明治天皇により、1890年(明治23年)に官幣大社として創建されました。日本最初の天皇が祭られている神社がある地、奈良は日本人のルーツを感じさせる、なぜだか落ち着く場所です。

イラスト:駒津ゆはり

趣味や時々お仕事でイラストを描いています。レトロなものや手作りのもの、日本の伝統文化、鳥やファンタジーが好き。

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