「若手職人の絶望日記」でおなじみの柴田さんが手がけるアウトドア漆器ブランドerakkoから待望の新商品が発売された。その名も「北海道でシチューを食べたいうつわ」。アウトドアを愛する柴田さんらしい自然の中で使いたくなる道具だ。
いつもはおちゃらけたように見える柴田さんに、今回はものづくりのお話しを真面目なトーンで語っていただいた。商品はこちらのページからご購入いただけます。
まずは今回の新商品を作ろうと思い立ったきっかけを教えてください。
きっかけは、「漆器は何度でも塗りなおせるから、傷がつくのも気にせず使ってほしい。」という、よく聞く言い回しでした。僕も言ってました。
でも、「気にせず使えるか!」というのが正直な感想です(笑) 車やスマホだって同じように修理ができますが、ピカピカの新品に少しでも傷がついたら相当なショックを受けますよね。塗り直しだって費用がかかりますし。
そういったピカピカのものより、素朴で手づくり感のあるものに興味が出てきたので作ってみることにしました。
「北海道でシチューを食べたいうつわ」という一風変わったネーミングですが、北海道に対してどんなイメージを持っていますか?
無職で自転車旅をしていた時期の個人的な経験からくるイメージですが、いろんなものを受け入れてくれる懐の深い土地という印象を持っています。(都会には寄りつかないので田舎のイメージです。)
今でも毎年二回は行くほど好きなのですが、広大な自然の中にある暮らしや営みの景色にはなぜかホッとします。肌寒い夕暮れ時にだだっぴろい丘陵地帯の農道を自転車で走っていたら、あまりに清々しくて一人でニヤニヤしていたこともあります。
人間が生きている事そのものや在り方を表す “human being” と、社会との関わりの中で何をしているのかを表す ”human doing” という言葉がありますよね。
僕にとっての北海道は、社会との関わりとは関係なく存在していることを肯定的に感じられる ”human being” の場所です。そこに行けばいつでも自分を取り戻せるようなイメージを持っています。
柴田明(erakko)
京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きています。アウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動中。
erakko公式サイト
前回の「おとも椀」はフォルムが洗練されていて、仕上げも非常に美しかったのですが、新商品はずいぶんワイルドな雰囲気なので驚きました。なぜこの方向性になったのでしょうか?
今回の雰囲気は伝統工芸的な「漆器」のイメージとは離れていますよね。さっきの話とも共通するんですが、おとも椀も「キレイすぎて使わずにしまってある」という声を聞いたりします。
大事に使おうと思って買ってくださった方がそう思われる気持ちはすごくわかります。仕上げ、すごくキレイですしね(笑)
それはそれでいいのですが、自分がいま作りたいものは、少しの傷でも気になるくらいのキレイさではないなと思いました。多少の傷は味や思い出と捉えられるのも生きていく強さの一つかなと思うので、そんなたくましさを感じさせてくれる漆器を作りたいと考えていて。
なので、ひたすら整えられた美しさが目立っていた「おとも椀」とは対照的に、荒っぽくも素朴な美しさを感じられる方向に向かっていくことになりました。
(次のページに続く)
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