柴田明

みなさまは世の中に、”ついてもいいウソ” はあると思われるだろうか。いかなる理由があろうと相手をだます行為や言動はよろしくないとお考えの方もおられるだろう。

しかし私は、相手を思いやる気持ちから出た”優しいウソ”であるなら、ついてもいい時があると思う。私自身、遠いフランスから私を想うパリ娘を優しいウソで包み込んでいたことがあった。

なんせそのパリ娘は、「滞在ビザは取れそうか?」とか、「いつになったらフランスによこしてくれるのか?」と気をもんだメールを定期的に送りつけてくるのだ。

そのたびに私は、「ビザの取得は専門家に相談すべき高度な事案のため、少しお待ちください。」とか、「長期出張中のため、帰宅したら作業を再開します。」という返信で安心するようなだめすかしていた。

もちろん、私には高度な事案を相談する専門家などいないし、長期出張にも行っていなかった。どうしてこのような面倒事に巻き込まれてしまったのか。

きっかけは2019年の春に送られてきた一通のメールだった。

テキスト:柴田明(erakko)

京都で漆と木工の仕事をしている脱サラ職人。父は職人歴50年のガンコ者。絶望的な経済状況の中でおもしろおかしく生きています。アウトドア漆器ブランド「erakko」を立上げ活動中。

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ビザ

要約すると、フランス・パリのエコールブール工芸学校で塗装技術を学んでいるそのパリ娘が、最終学年に海外インターンシップの依頼をしてきたのだ。

数ある漆芸家の中から私に依頼をしてくるとは、なかなかの慧眼の持ち主らしい。開始時期はその年の秋からで、期間は半年ほどとそれなりに長くなるようだが、特に断る理由もない。

「住む場所や給料など、金銭的な援助は一切できない。それでもよければ私はかまわない。」という旨のメールでインターンシップの受け入れを表明した。すると、「アリガトウ。ソレジャ、ビザの手配ヨロシク。」という返事が送られてきた。

ビザ?なんだそれは。自慢じゃないが私は海外旅行の経験が無くパスポートさえ持っていない。(ビザは、海外からの渡航者を受け入れるかどうかを、受け入れ側の国が審査して発行するものだそうだ。)

寝耳に水であった私は、「ソレハ コチラで 用意シナケレバ イケナイノデスカ?」と返す。そんなものは依頼をしてきた側で用意するのが当然であろう。私は面倒な書類仕事などまっぴらごめんだ。

次のページに続く)

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