パリ娘からの返事と、独自調査した結果を合わせてみるとこういう事だった。
日本の入国審査は厳しく、長期滞在用のビザとなるとなおさらであるらしい。渡航者側が他国から日本へ滞在ビザ発行の申請をすると、数か月待たされる事もある。
一方、入国希望者に代わって日本から受入れ側が申請をするとスムーズだ。必要書類が揃って安全と判断されれば2週間ほどでビザが発行されるのだとか。
なるほど。日本からビザを取得した方が確実だという事は納得せざるを得ない。しかしなんだこの敗北感は。したたかな西洋人にまんまと後出しジャンケンを決められているではないか。
日本人がこんなにも扱いやすい民族であっていいのか。いや、あっていいはずがない。今こそ西洋の若者にサムライの末裔の意地とプライドを見せつけるべきではないか。不意打ちの後出しジャンケンを華麗にかわし、「インターン受け入れるのやっぱやめました。」と秘剣・前言撤回を放つことも考えた。
だが私はビザの代理取得を無言で受け入れた。おそらく私の先祖はサムライなどではなく、理不尽をも飲み込んで愚直に畑を耕してきた農民だったのだろう。
とはいえ腰が重い。明日やろうが積み重なって3か月が経過した頃からパリ娘の矢の催促と、それをなだめすかすウソとの応酬が始まったのだ。
いよいよパリ娘の単位取得が危ぶまれるのではというプレッシャーからようやく重い腰を上げる。一般的には書類作成のプロである行政書士が担うとも言われる長期滞在ビザの取得をはじめた。入国管理局に通い書類のダメ出しを受けること数回。七月某日にパリ娘の滞在ビザが自宅に郵送されてきた。
送られてきたビザをフランスのパリ娘に送ってやれば私の仕事は完了である。あとはパリ娘がフランスで手続きをして日本にやってくるだけだ。
海外に知人のいない私は、国際郵便を送ることも初めてだ。エアメールというやつではないか。赤・青・白の斜線でフチ取られたあの封筒で送るやつではないか。なんだかグローバルな人間にでもなったみたいで気分が高揚する。
意気揚々と郵便局に出かけた私は窓口で、「国際郵便を出したいので、あの三色でフチ取られた封筒が欲しいのですが。」と切り出す。すると窓口担当者が、「どんな封筒でも出せますよ。」と無表情で応える。
衝撃の事実を告げられて動揺してしまったが、持ち前の明晰さで瞬時に気持ちを整理して立て直す。これは国際郵便が出せるのか出せないのかという問題ではないのだ。私は、あのいかにもエアメール然とした封筒でもって、グローバル人材としての気分を味わいたいのだ。
だが私は、「あの封筒で出したいんや!いいから持ってこい!」と、素直に主張する事を恥じらった。そして平静を装い、「あ、そうですか。」とだけ言い残して自ら背を向ける結果に終わる。やはり私には、我こそが正義だと信念を貫くサムライの血は通っていなかったらしい。
一度帰宅してから、ビザ発行許可証を薄っぺらい茶封筒に入れて郵便局に持ち込んだ。あの頼りない封筒は無事にパリ娘へと届くのだろうか。
次回、パリ娘が京都へとやってきます。お楽しみに。
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イラスト:SORRY.
和菓子好きイラストレーター。デザイン会社での経験を経て、現在はフリーランスとして活動中。ショップやラジオ番組のロゴデザイン、雑誌の挿絵などを制作。
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写真:其田有輝也
erakko おとも椀
erakkoは、京都・山科に工房を構える柴田漆工房の二代目が旅の道具を作りたいと立ち上げたブランドです。木地作りから漆塗り仕上げまで、全ての工程を自社で行っています。
旅やキャンプなど、アウトドアで過ごす大切な時間に天然素材のうつわでおともしたい。そんな気持ちから生まれたのがerakkoのおとも椀です。天然素材である木と漆を味わうだけでなく、アウトドアで使うための工夫を施した本格派の作りになっています。
カエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、ウォールナットなど、おとも椀の木地には様々な樹種を使用しており、それぞれがもつ個性を引き出すことにもこだわっています。木肌の色や木目を活かすため、拭き漆に使用する漆は樹種ごとに使い分けています。
おとも椀には、高台(こうだい)といわれる底の立ち上がりがありません。野外での使用を考え、重心を低くして転びにくくするためです。これ以上ないシンプルさと、ふんわりしたやさしい丸みで、いつまでも両手で包み込んでいたくなるお椀です。
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生産地:京都府
サイズ:Φ110×H55
仕上:拭き漆
付属品:風呂敷(むす美 / 日本製)
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